友人に誘われて花見鉄道旅を楽しむことができた。鉄道旅と言っても、長野から山梨の往復を電車に乗ったというばかり、あとは友人の車であちらこちらと連れて行ってもらった。
朝は眞原桜並木をゆっくり歩き、花の向こうに聳える甲斐駒ヶ岳、鳳凰山の勇姿を楽しんだ。キジの鳴き声が響き、ツグミが草原を歩き、シジュウカラが小枝を渡る。花見には最高の青空、澄んだ高原の空気を味わいながらゆっくり花の下を歩く。
桜並木は5分咲きくらいか、まだ蕾が多いが、見事な枝にびっしり花をつけて広がっている。
たっぷり桜を楽しんでから車で出発。今日は八ヶ岳の中腹の峠まで行こうと話していた。だが、峠へ続く道はまだ冬支度のままらしく通行止めになっていた。残念だが仕方ない。途中の富士見高原に立ち寄ってみよう。
神奈川に住んでいた頃、冬の楽しみはスキーだったが、だんだん遠くまで車を走らせるのが面倒になってしまった。多忙でゆっくりした休日を楽しむことも難しくなっていた。それでもスキーはしたいと、近くのスキー場に出かけることになった。その頃神奈川から近かった富士見高原にも何回か出かけた。ゲレンデは狭いけれど、疲れた体を伸び伸び開いて雪の上を滑り降りるには十分だった。何度も滑り降りて帰ったものだ。
4月のゲレンデにはまだ雪が少し残っていた。そして、今日の青空の下、雄大な南アルプスが絶景だ。わずかに残る雪の上を走るタノちゃんのお茶目な姿にみんな大笑い。でもなんだか懐かしいような嬉しいような・・・ここで滑ったなぁとしみじみ思うのはただ歳を重ねたせいなのか。
しばらく高原からの絶景を楽しんでから次の目的地に向かう。小淵沢からほど近い里山の一角に広がる井詰(いづめ)湧水を訪ねよう。ここにある御神木樅木は樹齢500年ともいわれる巨木だそうだ。男性二人が両手を広げて樅木を抱こうとするが、半分くらいにしかならない。見上げると真っ直ぐどっしりと空に聳えている。雄大だ。
樅木の足元から湧き水が自在に広がっている。この豊かな湧水が井詰(いづめ)湧水というらしい。水の流れに沿うように緑の芽吹きが広がっている。セリかクレソンか、どこかで見たような葉だ。ところどころに丸い葉が見えるのはワサビ、そしてもっと大きいのはメタカラコウかな。
湧き出した水は縦横に広がっているので、うっかりすると水に潜ってしまいそうだ。長靴を持ってくれば良かったねと話しながら歩いてみる。湧水域はかなり下まで広がっているようだが、街歩き用の靴ではあまり遠くまで行けない。
御神木樅木の周りをうろうろしていると足元に妙なものがある。「キクラゲが落ちているのかな」と言いながら触るとしっとりしている。「これ、キノコだ」。手の平からはみ出しそうな大きなキノコはシャグマアミガサタケというらしい。春を告げるキノコ、アミガサタケの仲間だけれど、この子は有毒らしい。脳みそ(実際に見たことはないけれど)みたいなぐちゃぐちゃした形で一度見たら忘れられない。
静かな森の中には小鳥の声が響いているだけで、春の息吹がしっとりと寄せてくるようだ。男性たちが木の幹に頭を寄せているので何かと見ると、2本の尾がとても長い小さな虫がいる。目玉がギョロリと大きい。これはカゲロウの仲間だね。森の空気をたっぷり楽しんで、また草花が育つ頃に来てみたいねと話しながら車に向かう。
キミちゃんがもう一つ湧水があるから行ってみようと言う。少し走ると大滝湧水に着く。勢いよく水が噴き出しているところが三ヶ所くらいある。そして、その一ヶ所には何人かの人が大きな入れ物を持って並んでいる。私も並んで、持っていたペットボトルに汲んできた。並んでいた女性は「とても美味しいですよ。コーヒーなども美味しくなりますよ」と言いながら、たくさん汲んでいた。清流の流れにはワサビがあり、花開いていた。汲んできた水はクセのない爽やかな飲み口だった。
さてそろそろお昼にしようかと言いながら車に乗ると、タノちゃんがもう一ヶ所寄り道をしようと言う。鉄ちゃんの夫のために連れて行ってくれたのは三峰の丘。富士をバックに中央線が見下ろせる。富士山、北岳、穂高岳と、標高が3番目までの峰が見えるという丘だ。穂高は少し霞んでいたけれど、確かに見える。すごいねぇと話していたら、特急あずさがやってきた。夫は大喜びで撮影。
山梨の春をたっぷり、そしておしゃべりもランチタイムも楽しんでから、八ヶ岳ブルーの下を小淵沢駅まで送ってもらった。