今年は春の花の開花が遅れている。春先になって何度かやってきた寒波の影響らしい。近年3月末には見頃を迎えることが多かった旭山山麓のカタクリ群生地だが、今年は遅いだろうと、4月になってから出かけた。
裾花川を越えて里島発電所に向かっていくと祭りの幟が出ていて催し物らしい会場のセッティングがされている。例年この時期の土日にカタクリ祭りがあるが、今日明日が今年の祭り日らしい。団子や大福が販売されているが、まずは花を見に行こう。
山裾に入って行くとアブラチャンの淡い黄色が霞のように広がっている。いつもの年より黄色が薄いような気がするが、まだ早いのだろうか。
群生地にはカタクリの小さな葉がたくさん出ているが、開いた花は少なめだ。今日の日差しがまだ薄いからか、蕾はたくさん見えるが、カタクリ独特の跳ねるような開花になっていない。どうしようかなぁと迷うかのように中途半端に広がっているのも多い。でも今日は青空が広がり、久しぶりに暖かい。太陽もだんだん高く登って来た。これからどんどん開いていきそうだ。
近くにはアオイスミレも咲き出している。春早くに咲くスミレ、葉の形が葵に似ているからこの名がついたそうだ。毎年ここを訪れて会えるのを楽しみにしている。
今日は祭りということもあってか、人が多い。大きなカメラを持った人が何人もいる。花の間を行ったり来たり、良いアングルを探して撮影している。そういう私たちも、カタクリ、アブラチャンの花を撮影して歩く。2枚の大きな葉の真ん中から一本の茎を伸ばし、その先に薄赤紫の花を開く。上から見ると一色に見える花の内側をのぞくと模様が見えるのも楽しみだ。
茶枯れた早春の森に一番に咲くカタクリは、花も葉も大きいから妖精というイメージにはちょっと遠いのだけれど、花のあと大きな実をつけると地上から姿を消してしまう。まさしくスプリングエフェメラル(春の妖精)だ。
4月の半ば過ぎに来てみたことがあったが、花はすでにほとんど散って実が膨らんでいた。カタクリが散っている斜面にはヒトリシズカが白い清楚な花を伸ばし始めていた。我が家から群生地までは歩くと40〜50分くらい、山道を回ったり、街の中を歩いたり、コースはいくつかある。以前途中の斜面にツクシが大群生していたのを見つけたが、最近はあまり見ることもなくなった。道草を食いながら花を見に行くのも楽しい。
カタクリの花は6枚の花弁に見えるが、外側の3枚は萼、内側の3枚が花弁。カタクリと言えば、この6枚がきれいに反り返った姿をイメージする。時々花弁(と萼)が8枚の八重の花もある。今年は一輪だけ見つけた。
ゆっくり花を見ているうちに太陽も登って気温が上がり、花は徐々に開いているようだ。今日は急ぐ用もないので、私たちは花が開くのを待ちながらのんびり花見を楽しむ。テングチョウがヒラヒラと花の上を飛んでいる。
カタクリの花の内側にはまるで桜の花びらを描いたようなラインが見える。美しいそのラインは蜜標という虫を呼ぶためのもの。虫に花粉を運んでもらうための工夫というわけだが、自然の仕組みは本当にすごい。
図鑑によるとカタクリの種にはエライオソームという塊があって、これがアリの好物。アリは自分の巣に持ち帰ろうとするので、カタクリの種が散布されるということらしい。昔は花や葉をおひたしにしたり、球根を片栗粉にしたりして生活に密着していたらしい。カタカゴと呼ばれていたというのはよく知られている。
カタクリの花を楽しんだ次は、群生地の近くに苔むした石垣があるので、そこで足を止める。ここへくると楽しみにしていたタマゴケを探すと、いたいた。今年はたくさんタマ(胞子嚢)をつけている。緑の半透明に見えるタマは近づいてみると一つ目小僧のようでひょうきんだ。
花を眺め、苔に目を寄せ、山道の散歩も楽しんだので、大福でも買って帰ろうか。来た道を裾花川方面に降りていくと、里島発電所の門が開いている。今日はカタクリ祭りに合わせて一般開放をしているそうだ。発電所の中はなかなか見る機会がないから寄ってみることにした。職員が数人いて説明をしてくれる。昭和初期に建造されたという建物の当時の様子が白黒写真で展示してある。水の流れる力で発電が起こる仕組みは明確にはわからないけれど、実際に動いている機械を見ると、その凄さを実感する。
見学を終えて、買い込んだ大福を持って裾花川のほとりに向かう。もう少しで周辺の桜が満開になるだろう。
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