いくつかの用が重なって、久しぶりに神奈川で時間ができた。昼前に久里浜に着けばいいから、その前に一つ花に会ってこようと、横須賀線逗子駅で降りた。前日は神奈川にも雪が降っていたが、この日は朝から青空が見える。8時前に動き出したので、ゆっくり歩けるだろう。
目的地は森戸川、子供達が小さい時には何度も一緒に歩いたところだ(※)。息子がシバさん(柴田敏隆コンサベーショニスト1929-2014)と一緒に歩いていて、サンコウチョウの卵を見つけたと言っていたことがまだ昨日のようだ。
朝早いので、まだ誰もいない。さて、二十数年ぶりだろう、森戸川源流の入り口に着く。最初の印象は「汚い」だった。梅の花や水仙の花が香り高く咲いているのに、一方で放置された大きなゴミがたくさん目につく。森に入る手前の両岸には小屋のような建物もあるが、朽ちかけているようで、今にも崩れ落ちそうだ。
こんなだったっけ?もっと緑が濃かったような思い出があるけれど。記憶はいつの間にかヴェールをかけられて美化されていることもあるので、自信はない。
川岸を少し遡ると道を塞ぐ柵が見える。関係者以外立ち入り禁止とあるが、人は横から通れるように作ってある。ここからは荒れているから自己責任で歩けということか。
3月の半ば、長野に比べればずいぶん暖かいだろうと思ってきたが、前日に降った雪もところどころに残っている。深い森の中に入っていくと、道端に咲く花もまだ見えない。道は湿っている。
しばらく歩くと、看板が見えてきた。かなり朽ちている看板には「森戸川村」の文字が残っている。はて、以前に来た時には無かったようだが。案内書が入っていると書いてある箱は壊れたようになっていて中は空っぽ。後に家に帰って調べてみたら森戸川源流の保全活動をしている自然保護団体らしい。現在どういう状況になっているのかよくわからないが、春になって活動しやすくなったらまた始まるのだろうか。
歩いていくと道の脇に小さなネコノメソウの葉が目立ってきた。これは、今日の目的のあの子ではない、ヨゴレネコノメかイワボタンか・・・。まだ花が咲いていないのでよくわからない。葯が見えればはっきりするんだけれど。萼裂片は黄緑色みたいだからイワボタンじゃないだろうか。もう少し行けば咲いている子もいるかもしれないと思いながら進む。
朝早かったので、人はいない。頭上に鳥の声が賑やかだ。途中、河原に降りられるところがあったのでゆっくり降りてみる。ところが、足音が聞こえたか、黒っぽい水鳥が大きく羽ばたきながら飛んでいった。嘴が黄色っぽいのだけは分かったけれど、君は何?
高い木の梢から木漏れ日がキラキラ降ってくる。のんびり木漏れ日や澄んだ水面を眺めていたら、またさっきのサギのような鳥が飛んできた。私の頭上を大きく羽ばたきながら去っていった。
サギを驚かせていてはいけないので、また岸に上がり先へ進む。日曜日だからやってくる人もいるだろうと思っていたが、ようやく人の気配がしてきた。親子だという男性二人連れは双眼鏡を覗きながら早足で進んでいった。
会いたかったムカゴネコノメソウはポツリポツリと咲き出していた。今日は話す相手もいないから心の中で「やったー」と叫ぶ。しゃがんで小さな花を撮影する。離れた葉が小さな赤ちゃんの手のようで可愛い。葉が対生している様子も分かった。
ムカゴネコノメソウは関東、東海地方の一部にしか咲かないというので、いつか会いたいと思っていた。ここまでやってきた甲斐があったというもの。
時間を見ながらもう少し、もう少しと奥に進んでいたが、さすがに約束の時間が迫ってきたので、引き返すことにした。帰り道、ふと足元を見るとここにもムカゴネコノメくんがいた、だがよく見るとこの花は葉が互生になっている。葉の表面も少し違うみたいな気がする。これはツルネコノメソウかもしれない。
大好きなネコノメソウの仲間にたくさん出会えて短い時間だったけれど素敵な森歩きになった。帰り道では純白のダイサギが道案内をしてくれるかのようにずっと脇を一緒に進んでいて感激。接写用のコンパクトカメラしか持っていないので、その姿は綺麗に撮れなかったけれど、目には焼き付けた。
入り口の柵では観察会らしい団体さんとすれ違い、早い時間に歩いてよかったと呟きながら駅に向かった。