やっと3月になった。待ち遠しい春。曇り空が続いた長野にも青い空が眩しい日が増えた。しばらく前から開花したという福寿草を見に行ってこようか。今年の花見山歩き第1号。
松代周辺はどこのピークも山城や狼煙台などの痕跡が残るそうで、長い歴史を感じる。
鏡台山から続く長い稜線が松代の南で平野にぶつかると、そこは川中島の肥沃な土地。その最後のピークが斎場山だから、ここから肥沃な土地を見下ろせば自分の陣地にしたくなった武将の気持ちもわかろうというもの。低い山並みが続くのだけれど、一つ一つのピークは意外に急な斜面に囲まれていて、昔の厳しさを知ることになる。
車で一気に妻女山展望台まで登ると駐車場がある。この先にも林道は続いているが、タイヤの痕で土が削られ、日が差さない北側はいつまでも残った雪が凍っているから一般車では通りにくい。
今日は青空の下にアルプスが真っ白に光っているから見て行こうかとも思ったが、それは帰りのお楽しみにして登り始める。ほとんど雪のない林道を歩き始めると、暗い森の中から何か飛び出してきた。カモシカだ。2頭のカモシカがザザッと枯れ草の音をさせながら斜面を走っていく。「待ってよ」と言いながらカメラを構えると、後ろの一頭が立ち止まって振り向いた。木々の重なる暗い森の向こうだったので、慌てて撮った写真はピンボケだったが、カモシカさんは、じろりと私たちを見て危険はなさそうだと思ったか、ゆっくり木々の間に消えていった。
歩く早々カモシカに遭遇して、私たちは急に嬉しくなった。森の中に横たわっている朽ちかけた木々の間を粘菌はいないかなとのぞきながら歩いていく。
まだまだ道路のえぐれたところには氷が張り付いている季節、粘菌も目を覚さないようだ。それでも1ヶ所、マメホコリが体を寄せ合うようにして並んでいるのを見つけたので、夫は大喜び。いろいろな粘菌ももう少しで動き出すのかな。
分岐まで上がると、まずは斎場山の山頂に挨拶に行こう。久しぶりだ。この山域は山城跡も多いが、実は古墳もたくさんあるらしい。斎場山山頂にも『五量眼塚古墳』という標識が立っていた。ぽっこりと丸く盛り上がった山容はまさしく古墳。ただ、木製の標識は来るたびに崩れ、朽ちてきて、今では斜面の下に倒れてしまった。
斎場山から今度は鞍骨山方面への道を歩き出す。緩い傾斜を登っていくと左に陣場平、右に大塚古墳の分岐点がある。今日は大塚古墳の方へゆっくり降りていく。道の脇の斜面はヤマコウバシの森、枝に残る枯葉に日が当たってキラキラしている。歩いて行く道にもナラやクヌギなどの照り葉が散り敷き、光を反射している。
綺麗だね〜と声を出しながら下っていくと大塚古墳の入り口だ。右には爺ヶ岳、蓮華岳などのアルプスの山々が見えている。今年の雪の多さを物語るように山肌は一面真っ白だ。
そこから回っていくと黄色く光る花、福寿草があっちにもこっちにも。パラボラアンテナのように艶のある花びらを大きく広げて太陽光を受けている。花の中は温度が高いそうで、集まる虫たちはこの暖を求めてくるのだとか。蜜を出さないが、他の花が少ない時期に咲くので競争相手がなく、花の中の温度を上げて虫を呼ぶというからすごい。集まった虫が花粉を運んでくれるのだ。
見ていると確かに虫の羽音がする。ブンブン、ブンブンと忙しそうにあっちの花こっちの花と飛び回っているのや、すぼまった花の中にすっぽりくるまったようになって休んでいるのや、虫も色々だ。
福寿草の花をゆっくり見てから、今度は陣場平に向かった。広い陣場平はまだ一面茶色だったけれど、落ち葉の下をのぞくと緑のバイモが顔を出している。バイモの新芽はまだ根本が白っぽいのもあるが、落ち葉を突き破って伸びてきたのはツンツンと尖って元気が良い。もう少し、もう少しというように、落ち葉の下にはさまざまな草花の芽が隠れている。
陣場平には新しいベンチがいくつか設置されていて、私たちはありがたくそこに腰掛けて休憩。日が当たるベンチでおやつを食べながら、もう少し経ってこの広がりに花が満ちてくる様子を思い描く。今日の枯葉の海の中にただよう時間も捨て難いとは思うが、花々が揺れる勢いのある風景が待ち遠しいのも確かだ。
充分休憩して、さて帰ろうか。きた道をゆっくり戻り、妻女山展望台に立つ。北アルプスの真っ白な壁が一文字に連なっている。北に目を移していけば戸隠山、飯縄山も大きく立ちはだかっている。朝より車が増えて、何人かの人が山を眺めている。3月の声と共に訪れた温かい空気とスッキリした青空に誘われてきたのかもしれない。