数日青空が続いたので、もう雪はほとんどないかと思って来たが、山頂は真っ白だった。北の空は灰色の雲で覆われ、飯縄山はほとんど見えない。それでも今日は日が当たればポカポカと温かい。半分だけ雪が溶けた木のベンチに座って煎餅を食べる。山の上で座って過ごすのはなんと久しぶりだろう。早めに家を出てきたので、まだ9時を回ったばかりだ。
日が当たらないところは雪が凍っていて滑ったけれど、すでに消えて土が出ているところも多かったので、登るには困らなかった。
正月過ぎからなんとなく風邪気が抜けないと言っていた夫も耳鼻科の薬が効いたのか、ようやく山へ行こうと言うようになった。嬉しいことだ。
久しぶりに二人で歩いた地附山(23日)はまだ寒波の影響が大きく、どこもかしこも真っ白で、山道を歩いている間誰にも会わなかった。
雪の上にはノウサギやイノシシ、シカらしい足跡がたくさんあり、頭上にはシジュウカラやヤマガラの姿が飛び交っている。
今日も小鳥の声が聞こえる中を登った。シジュウカラはすぐ近くで囀り、綺麗な緑色が目を引いたが、細い枝の向こうにいる鳥はコンパクトカメラで狙うのが難しい。ピントが前の枝に合ってしまうのだ。麓の方にはカワラヒワが賑やかだったが、地面を突きながら群れている様子は、逆光で見るとスズメのようにも見えてしまう。鳴き声が違うから「あ、カワラヒワ」と分かる。
雪が溶け始めた山道だが、早朝のコンディションはあまり良くない。残った雪や、溶けて湿った水分が凍っているからだ。うっかり前の人の靴跡に乗るとツルリと滑る。土が出ている所も多いので、アイゼンは履かない。地面を削ってしまうし、石に乗れば危ない。滑らないようにゆっくり丁寧に足を運んで登っていく。
朝は青空が広がり、太陽が眩しかったが、薄雲が出てきてしまった。
パワーポイントに着いても向こうの山は見えないようだから、一気に山頂を目指す。先日は木漏れ日がキラキラして綺麗だったのに・・・、山は毎日違う姿を見せてくれる。だんだん深くなってきた雪の上には野兎、猪、鹿らしい足跡がたくさん残っている。正体はわからないけれど、一直線に丸い足跡も続いている。狸や狐もいるのだろうか。
急な斜面に様々な足跡が入り乱れているのを見ると、これが獣道かと思う。動物たちが見つけた歩きやすい斜面なのだろうか。雪が深いと、人が歩いた足跡を辿るように、猪や野兎の足跡が続いていることも多く、野生動物も雪に埋もれない道を選ぶんだなぁと感慨深い。それでも彼らはやはり人間の跡だけ辿っていては生きていけない。ちょっと楽をして、また雪の中に帰っていくようだ。
山頂に着いたら、女性が一人登ってきた。挨拶をして通り過ぎていく。朝早くやってくる人もいるのだなと見送る。この日、一人だけ山中で出会った人だ。
まだ、日本全体に寒波が厳しかった先日の空は思わず息を呑む雲の姿だった。飯縄山に被さる大きな傘のような雲は生き物のようでいて、そこだけ動かず、じわじわと山を飲み込んでいくかのようだった。私たちはしばらく眺めていたが、ジワ〜ッと山を包む雲はかすかに揺れながら動かず、周囲の雲ばかり流れていくので、帰ることにしたのだった。
あの日は信濃町や飯山の方には雪が降っていたようだ。北の空が暗いと、その地方の人々の苦労がしのばれる。子供時代を雪国で過ごし、多い時は家の2階から出入りしたこともある私にとって、多雪地方の苦労は人ごとではない気がする。
さて下ろう。その時々で選ぶ道は違うが、滑りそうなこの時期は緩やかな道を選んで歩く。下るにつれ雪の量は少なくなり、木々の芽が膨らんでいるのが嬉しい。ツノハシバミの雄花は細長く伸び、その近くに雌花がポツリとついている。オオバクロモジの花芽は少しずつ膨らんでいるのだろうか、まだその変化を感じないくらいだが。ダンコウバイの花芽はほんのり黄色味を帯びているものもあり、もう少しで咲きそうだ。サンシュユも同じ。通るたびに眺めてその変化を楽しみにしている。木の芽はまだ知らないものが多く、見分けられる木は数えるほどしかないが、それを探しながら歩く山道も楽しいものだ。
ヤマコウバシの茶色い葉がいつまで残っているのか、毎年見届けようと思いながら、春になって地面の花が気になりだすと忘れてしまう。今年は忘れず、目に留めていけるだろうか。今日はウワミズザクラの木の芽を見つけて心浮き立つようにして帰り道を歩いた。