12月中に何度も雪が降り、山は一気に白くなったが、日中晴れると溶けるのも早い。降っては溶け、降っては溶けているうちに少しずつ白い部分が増えて一面白い根雪になるのは年が明けてからだろうか。
年末の雑用があってバタバタしているが、裏山なら午前中に行ってくることができるので、朝の空模様をみてさっと出かける。朝早いと凍って滑ることがあるから要注意。一応リュックに軽アイゼンを入れて出かける。家の北の道路と、その先の両側をブロック塀で閉じられた道路が凍っている。気をつけて歩きながら、山道も凍っているかなと気に掛かる。
だが、凍ってツルツルしたのは街中の舗装道路だけ、山に入ったら歩きやすくなった。地熱が高いのだろうか。地附山は人気の里山、毎日誰かが歩いているから道は踏まれて雪が溶けている。一面の落ち葉が濡れているが凍り付いてはいない。
周囲の木の実や冬芽を見ながらゆっくり登る。木の上に残る雪は少ないが、それでも時折大きな塊がバサッと落ちてくる。陽に反射して光の滝のようだ。
このところ何回か朝早めに登っているが、下山の頃に何人かとすれ違うことがあるけれど、登りではいつも山頂まで人に会わなかった。今日は土曜日だからか、すでに降りてくる人とすれ違ったり、後ろから駆け上ってくる人に追い越されたりしている。山も賑やかだ。
地附山公園が11月末に冬季休園に入るため、冬の間は駒弓神社からの登山者が増える。そう言う私たちも、夏の間ご無沙汰していた山道をたどる。アカマツ、ネズミサシなどの針葉樹は冬も緑の葉に雪をいっぱい乗せている。カエデ類やハンノキなどの落葉樹の梢からは明るい日がさしている。道の脇にはヤマツツジ、アクシバなどの低木が枝を広げ、森は登るごとに姿を変え、目を楽しませてくれる。
この季節の山歩きは冬芽や葉痕を探すのも面白い。昔、三浦半島を歩き回っていた頃、柴田先生(※)はあそこにもここにもと、いろいろな芽や葉痕を指さして、その形の面白さを話された。その奥深い知識量も、語りの軽妙さももちろん真似のしようもないのだが、自分が一人で山を歩いてみると、どうしてあんなにいろいろな姿が見えていたのだろうと、今更ながら感服する。
パワーポイントまで上がると、一気に雪の量が増える。そして野生動物の足跡が賑やかになる。前回来たときは誰の足跡もなく、野うさぎが走り回った跡だけが縦横についていた。どこもかしこも自由に歩き回っているようだが、人の歩く道は雪が圧縮されていてウサギも動きやすいのか一直線に山道を走る跡が続いていることもある。
青空が綺麗だから、見通しも良いかと思ったが、善光寺平の上には白く雲が覆っていて、その上に志賀方面の山々が浮き上がっている。左手前に高社山、奥志賀の山々から横手山、草津白根山などが正面に見える。さらに右に目をやると破風岳、土鍋山、菅平の峰々から浅間山と、雄大な稜線が続く。
しばらく山並みを楽しんでから山頂へ向かう。山頂から見る飯縄山は素晴らしいが、その北の妙高山は日本海側の天候に左右されて全く見えない時と、綺麗な白い稜線がくっきり見える時とある。そして面白いことに雪の量が多いから寒いとは限らない。地面は茶色でも空っ風がヒューッと吹き抜けるような日は着込んでいても冷え込む。雪が積もっていても、せっせと登るうちに汗ばんできて服を脱ぐ時もある。自然の姿が一様でないということなど、今さら言うことでもないのだが。
変わったものを見つけては喜んで撮影していく。だが、この季節、粘菌はなかなか見つからない。切り株は雪に覆われていることも多く、歩きながら見つけるのは困難だ。一つ一つ立ち止まって木の影を覗きこんでいると体が冷えてくる。どうしても目につきやすいキノコやコケに引き止められてしまう。大きいものは雪に覆われ尽くさないので、目に入るのだ。
素人観察だから、それで良いことにしようとも思っている。
いろいろなものを楽しんでいるうちにまた目が肥えて雪の中の粘菌も見つかるようになるかもしれない。
この日はツヤエリホコリらしいのがカビに取りつかれてしまったのを見つけた。カビもよく見ればなかなか面白い姿をしているが、粘菌を見たかった者としては一応残念と言っておこう。
イケさんが「粘菌の畑を作ったよ」と笑っていた切り株たちも、今は大きな雪帽子を被っている。