青空が広がっている。朝のうちいくつかの用が重なって、出かけようか迷っているうちに空が輝いてきた。こんな日は展望の良い山に行こうか、でももう遠出は難しい時間だ。
長野の南、あまり歩かなくてもアルプス北部が見える山、といえば茶臼山だ。先日行った時に登山口付近の工事をしていたから、今日は旗塚まで上がって、一層楽なコースを行こうと決めた。
走り出してから、水を忘れたことに気づく。慌てて出かけてきたから二人とも持っていない。今時はコンビニも自動販売機もあるから大丈夫か。途中のスーパーで水分と、ついでにおにぎりも購入してから山に上がる。
旗塚の下を通って茶臼山登山口に向かう。遠く南に蓼科山が見えるが霞んでいる。期待していたほどにはくっきりとした景色ではない。
茶色に枯れてきた森の中の道は落ち葉が積もっている。登山口から登り始めると、倒木が重ねてある。いつもここでまず観察。今日は粘菌が見つからない。倒木はたくさんの落葉に埋もれるようだ。だがじっくり見ると小さなハチノスケホコリの赤い色が見えた。
夫が撮影している間に、近くを見て回る。ハナワラビの仲間が数本顔を出しているが、葉の裏は無毛だから、これはフユノハナワラビだろう。最近葉裏に長い毛が生えているのはエゾフユノハナワラビだと教わった。さらに小さなマンジュウドロホコリも見つけることができた。
今年は粘菌に会える率が低い気がする。あまりに暑かったからか。雨が多くキノコは豊富だったので、粘菌も同じような環境を好むのではないかと思っていたが、それは一概に言えないようだ。毎年たくさん見てきた裏山の粘菌も、今年は不作だ。
茶臼山にもたくさん発生していて感動したことも多いのだが、今年はまだあまり出会えていない。などと言いながら急坂を登っていたら、道の脇の朽ちかけた倒木に何か見える。近づくと茶色く光る小さな粒々がひしめくようについている。緑の苔の上にも顔を出しているが、これはヌカホコリかな。拡大してみると、いくつかの茶色い玉がくっついて並んでいる。これはナカヨシケホコリという粘菌らしい。割れて黄色い胞子が飛んでいるものもある。黄色い糸のようなものは線毛体というらしい。
端っこには白い糸のようなもので覆われているのもあるが、こちらはカビだろう。近くには細いアミホコリや、可愛いマメホコリも見られ、夫はご機嫌だ。中には落ち葉にくっついた白い蝋のようなものもあり、これはなんだかよく分からない。夫はホネホコリではないかと言うが、はっきりしないようだ。
何れにしても何種類かの粘菌に出会えて嬉しくなり、展望台へ向かう足取りは軽い。だが北アルプスの峰々には雲がかかり、山頂部がよく見えない。しばらく待ったが雲の動きはあまり無いので、一本松の方まで行ってみることにした。
落ち葉が厚く積もった山道はふかふかで気持ちが良い。しかも葉を落とした木々の森は明るく見通しが良い。ふと森の中を見ると白い大きなキノコが並んでいる。開いた傘の上に落ち葉が張り付いていたり、重なって乗っていたりする。森の中に入ってキノコの跡を追ってみるが、ずっと遠くまで大きな円のようになって続いている。中には直径20cmもある巨大なキノコもあった。柄の根元がぷっくり膨らんでいるこのキノコはフウセンタケの仲間かなぁと言いながら道に戻った。
道はゆっくり降っていくが、少し右へ登ると今度は篠ノ井方面に展望が開ける高台がある。足元の山の麓には中尾温泉がある。新幹線の高架が一直線に横切っているから夫は大喜び。だが、しばらく待ったが新幹線は来ない。在来線が走っていくのを見て、先へ進むことにする。
いくつかのコースが集まる一本松で、休憩をしよう。買ってきたおにぎりを頬張る。陽が当たっている所に腰を下ろしたのだが、風が冷たくてじっとしていると冷えてくる。早々に食事を済ませ、歩き始めることにした。動いていれば体は暖かい。
「今日は変な登山だね」「帰りが登りだ」と言いながら、落ち葉の道をゆっくり登りかえす。来る時に通り過ぎてきた茶臼山の山頂に立ち寄った後、車のある旗塚に戻る。最後が登りというのはなんだか変だねと、有旅(うたび)茶臼山に登ることにする。今日一番の急坂かもしれないと笑う。有旅茶臼山山頂から旗塚にお参りして、ゆっくりゆっくり最後の下り道を歩いた。