昔は同じ山ばかり歩いていたら飽きるのではないかと思っていた。六甲山には「毎日登山」という文化があるというのは六甲山を訪ねた後で知った。自然との触れ合いに飽きるという現象はありえないと分かったのは何度も裏山を歩いた今になってのことだ。
久しぶりに大峰山を歩いてみたら思っていたより楽に行ってくることができたので気持ちが大きくなったか、再び大峰山に向かった。地附山の山頂を踏んでから裏の旧道に降りて、初めて車道からの大峰山登山を試みた。一日の歩行数などに興味を持ち始めた夫は「今日はのんびりゆったり歩きの登山だ」とニヤリ。登るというより歩くというスタイルの山登りにも興味が湧いたのかもしれない。
たった数日経っただけなのに、紅葉は進んだ。だが一度冷え込んだ空気はまた逆戻り、妙に暖かい日が続く。着込んできた服を脱いでぽちぽちと歩く。紅葉を楽しみながらパワーポイントに着く。東の山々は少し霞んでいるが、遠くの峰に流れるように雲が落ちているのが見える。「あれは滝雲かな」と夫。我が家の窓からも、群馬県境の峰あたりに時々見ることができる、稜線に雪崩落ちるような雲の動きだ。昔、大菩薩嶺から裏に回ったときに目の前に雲が一気に雪崩れ落ちてくるのを見たことがある私は、あまり好きではない。とても恐ろしかった。
土曜日だからか、地附山山頂には休んでいる人が多い。定点撮影もそこそこに私たちは旧道に降りた。夏の間に茂った草が茶色に枯れながらも丈高く揺れている。地滑り以来車の通行が途絶えた道はアスファルトが剥がれてそこから草が勢いよく茂ってきた場所も多い。このままにしておけば長い年月をかけて再び草生す地に還るのだろうか。
大峰山登山口まで歩くと、あとは緩やかに登っていく。道に積もった枯葉が足に柔らかく、思っていたより歩きやすい道だ。斜面にはたくさんのシダが生えていて面白い。変な匂いがすると言って倒木の脇を見るとやっぱりスッポンタケが生えている。そして嬉しいことに粘菌も数種類見つけた。残念ながら足場の悪い急斜面の倒木に多かったので、撮影はあまり綺麗にできなかったけれど、見つけただけでも嬉しいものだ。
車道歩きはつまらなくて大変だと思い込んでいたが、なかなか楽しいではないか。山頂の四阿で煎餅や果物を食べて一休み。隣の地附山には人がたくさんいたのに、ここ大峰山には私たちだけ。
しばらく休んでから山頂を越えて地附山方面に降りる。大峰沢の源流部から再び旧車道に戻り、ゆったり歩きを徹底する山歩きの1日となった。
次の日は早朝町内の清掃活動があったが、翌日から天気が崩れると聞いて再び山へ入ることにした。大峰山で粘菌が出ていたので、地附山も見てこようと思ったのだ。まだ仕事が残っている夫を残して一人、駒弓神社から登り始める。途中のりんご農園ではいよいよフジの収穫が始まっている。さっぱりして甘味のあるフジは我が家でも人気だ。
立派に実ったリンゴを横目に歩き、神社にお参りして登り始める。当てにしていた登り道の脇には粘菌が見つからずがっかり。パワーポイントまで一気に上がる。さまざまな落ち葉を見ては「何かな」と首を傾げ、その色の豊かさに感動する。
粘菌は見つけられないまま山頂に到着。この日も日曜とあって人がたくさん休んでいる。空いているベンチがないのも珍しいが、年配の男性ばかり10人以上の団体さんが山頂標の前で写真を撮っているのもなかなか見られない光景だ。
私は早々に降りて、粘菌通りに向かう。青かった空にはいつの間にか雲が広がってきた。午後に崩れるという予報は当たるのかもしれない。一つも粘菌を見ないで帰るのは悔しいので、雨粒が落ちるのを覚悟で粘菌通りを歩き始めると、いた。マメホコリがあっちにもこっちにも。近くにはヌカホコリも見える。そこから少し離れたところにはムラサキホコリのすでに胞子を飛ばした跡も見える。
何度も通ったスッポンタケの群生地にはまだ卵もあり、出たばかりの元気なのもある。そして、途中で真っ二つに折れたのもあった。折れていてもグレバには小さな虫がたくさん寄ってきている。
さらに何箇所か粘菌が出ているのを見つけ、「やっぱり粘菌通り、さすがだね」などと独り言を言いながら撮影しているうちに空が再び明るくなってきた。どうやら、家に帰るまでは持ちそうだ。