わが裏山には幾つかの里山が連なっているが、一番近い地附山から隣の大峰山に足を伸ばすのも楽しい。とは言うものの、今年は春の花の季節に行ったきり、夏場は全くご無沙汰してしまっていた。時々話題にはするのだが、なぜか足が向かなかった。だが少し涼しくなってきて、今日は大峰山に行ってこようかと、どちらからともなく口に出た。
面白いことにコースを決めるにあたって、一番楽なコースを選んでいる。花の季節には、花の咲くコースと決まるのに、今は花も粘菌もあまり期待できないから。
まず地附山公園の駐車場に車を停め、山の中腹をぐるりと奥にまわって大峰山の登山道に入る。大峰山の山頂を踏み、そこから物見岩へ続く道を降り、途中の分岐から地附山に登って帰る。これは最初から決めたコースではなく、「どっちへ行く?」と気分に任せて歩きながら決めたコースだ。何度も歩いている裏山だからできる。
地附山の駐車場に着いたら、知人の車がやってきた。地質のエキスパートである彼は、公園内にある『地附山観測センター』でガイドのボランティア当番なのだそう。
センターに行く彼と別れて、私たちはのんびり地附山を歩き出す。まずは大峰山を目指そうと、一気に山の奥へ入っていく。朝から気温が低かったので、歩いていても寒いくらいだ。倒木が多いねと話しながら進む。道の脇の倒木に何か青く光っている。近づくと小さな青い虫。
よく見ると足や触覚がゴツゴツしていて、七色に光っている。これはヒメツチハンミョウではないか。寒さで動きが鈍くなったのか、近寄っても逃げない。この虫は毒を持っているから気をつけないと。
さらに進み、サルナシを見る。もう季節は終わりだから茶色くしぼんでいるものが多いが、一個味見をする。見かけと同じく、キウィに似たフルーツの味。
この季節も楽しめることは色々あるねと、楽しみながら歩いていく。大峰山の登山道に入るとオクモミジハグマの実が見える。今年は花を見にこなかったけれど、ちゃんと咲いたんだね。細い冠毛が光を受けてキラキラしている。
寒いけれど、山登りには適温かもしれない。汗をかかないので調子がいいが、水分をとるのを忘れないようにしなければ。
紅葉を期待してきたが、最盛期にはあとちょっとというところか。それでも山頂のブナの葉が金色に日を透かしているのはなんとも美しい。
山頂肩の四阿でポカポカ斜めの日を楽しみながらおにぎりを頬張る。ちょっと早いお昼だ。東屋の周りには小さなキノコが顔を出し、ハナワラビの仲間も芽を出している。先日勉強したばかりのハナワラビ、近寄って葉の裏を見ると長めの毛がある。葉も重なり合っている。今までフユノハナワラビと思っていたが、これはエゾフユノハナワラビのようだ。
山頂のポカポカ日和を楽しんだ後は、一気に地附山へ行こう。歩き慣れた道を下り、スキー場跡までひと登り。久しぶりにストックを持ってきたら、思ったより楽ちんだ。
スキー場に着いたら、センブリを探しているご夫婦に会った。残念ながら今年のセンブリは少なめでもう終わりか、4人で探したが花は見つからなかった。ヤッコソウやトリモチなどという地味な花に興味があるそうで、以前私たちが粘菌撮影している時に見かけ、粘菌も綺麗だと思ったという。情報交換をして別れた。
青空の下に飯縄山、黒姫山、妙高山が見えている。登る度に秋色が深くなっていく。そしてある日一気に白く冬支度をするのだろうか。
山頂からはやはりスッポンタケのその後を見てから帰ろう。1ヶ月ほど前に見つけた卵のような幼菌が、なかなか割れなくて何度も通った。何個か伸び始めたのを見てからしばらく見に行っていない。「もうすっかり萎れちゃったかなぁ」などと言いながら近づいて行くと匂う匂う。「すごい匂いだ」「これはあるね」。卵たちはたくさん割れて、顔を出している。まだ出たばかりの若く、グレバが濃厚なものもあれば、発散する匂いに釣られて小さな虫たちが集まっているものもある。もう頭の部分も白くなって横たわっているのもあるし、切り株の途中から出てきたのもあるではないか。15、6個のスッポンタケが集まっている。
なんだか楽しくなって、足取り軽く公園まで降る。途中ベニテングダケにも挨拶し、知人がガイドをしている『地附山観測センター』にも立ち寄り、いつになく学習気分の濃い裏山散歩となった。