朝から青空が広がっている。久しぶりに爽やかな空気だ。洗濯物を干すのを待ってソワソワしている。こんな日はどこかへ行きたくなる。
「袴岳に行こうか」「いいね」「志賀の方も今日は晴れているかな」「多分」・・・思いついたところを並べている。 こんなにお天気が良いのは久しぶりだから、見晴らしの良いところに行こうかと、思いついたのが瑪瑙山。この季節には行っていないから初めての瑪瑙山の紅葉が楽しみだ。家にある食料を鞄に詰め込んで出発。連休だから戸隠は混んでいるかもしれないけれど、スキー場の駐車場は大丈夫だろう。
思った通り、広い駐車場には数台の車が停まっているだけ。私たちは足元を整えて歩き出す。草原に座って絵を描く男性が遠くに小さく見える。雪を待つばかりに準備されたスキー場のゲレンデは広々している。振り返ると、戸隠山が大きい。
つい見惚れてしまうが、私たちはさらに上を目指す。ゲレンデを少し上がったところから森の中の道へ入っていく。落ち葉に敷き詰められた道はふかふかして歩きやすいが、昨日の豪雨で流された落ち葉の堆積が水の流れを教えるように続いている。
深い沢、小さな沢を丸木橋でいくつか渡り、登っていく私たちを迎えてくれるのはハラリハラリと散る落ち葉ばかり。時折落ち葉の下に顔を出すキノコが目に入るが、さすがにこの季節、花はない。わずかに一輪咲き残っていたりする。
道の両側は笹に覆われている。花がないと写真を撮るためにしゃがみ込まないので進むのが早い。どんどん登っていくと、両側から笹が倒れ込んできて道が覆われてしまった。
先を歩いていた夫が「道が消えちゃった」と振り返る。確かに上から見下ろすと一面の笹ばかり。足元を見ると落ち葉が踏まれた跡が続いている。「そのまままっすぐ、笹をかき分けていけばいいよ」。しばらく露に濡れながら笹をかき分けて登ると、再び少し道が見えるようになってきた。まだしっとり露が残っているので、ズボンも靴も湿ってきたが、ひと頑張りするとゲレンデに飛び出した。ここは狭いゲレンデだけれど、小さな池があり、池の周りには湿原があって、花の季節にはコバイケイソウなどが咲く。
しばらく池の周りをうろうろしてからゲレンデを登り始める。この先もう一回森の中の道に入って上のゲレンデに出る道が楽しいのだが、この道にはグチョグチョした湿地もあった筈。今日は道が湿っているので、湿地はさけ、ゲレンデを登ることにした。
ペアリフトの山頂駅を過ぎ、お仙水コースを登りつめると山頂はすぐだ。冬にはリフトで登り、周囲の雪景色に歓声をあげたものだが、今日の快晴に浮かぶ山々も素晴らしい。急な斜面を一歩一歩登るたびに振り返りたくなる。少し登っては振り返り、また登っては振り返り、進むたびに視界がぐんと広がって、山々が迫ってくるようだ。黒姫山、妙高山、火打山、焼山、そして高妻山から続く戸隠連峰の崖がその険しさを見事に際立たせて迫ってくるようだ。山頂近くなると、北アルプスの峰々が白馬三山から南に連なり、槍ヶ岳、穂高連峰まで綺麗に見えている。