新潟県小千谷市に用があって出かけることになった。家から車で2時間以上かかるが、用は午後3時半から30分ほど。せっかく遠くまで行くのに、ただ行って帰るだけではあまりにもったいない。登山にも良い季節だと思うが、電車ならともかく車を運転するのは夫、疲れが溜まってしまうのも困る。あれこれ考えた末、途中の長岡市にある、国営越後丘陵公園に寄ってみることにした。
雲ひとつない青空、最近では珍しい好天に恵まれ、「こんな日は見晴らしの良い山に行きたい」と呟く私に、夫は「山の景色を楽しみながら行けば良い」と笑う。
信濃町あたりからは黒姫山、妙高山が目の前に見える。紅葉が始まってきた山肌は錦色に変わりつつあって美しい。
順調に走って、米山SAで休憩。真っ青な日本海とどこまでも続く空の間に佐渡が横たわっている。横に長く続く島影を見ると、あらためて大きな島だなぁと思う。
柏崎を過ぎ、西山ICで高速道路を降りる。地図を頼りにしばらく山の中を走ると、丘陵公園の表示が出てきた。案内表示を頼りに進むと広い駐車場に行き当たり、車がたくさん停まっている。
花も終わり、紅葉にはまだ早い季節だから、誰もいないだろうなどと思ってやってきたが、それは間違い。越後丘陵公園にはバラ園があり、今は秋バラの季節らしい。そして、公園内は広く様々な施設があって、子どもや家族連れなどが楽しめるようだ。コスモスの花も今が盛りのようだ。園内にはハロウィーンのディスプレイが施され、高齢者もベビー連れも、楽しそうに写真を撮っている。
誰もいない山道をのそのそ歩こうと思ってきた私たちは拍子抜け。まぁ、とりあえず、お昼を食べよう。たくさん設置してあるテーブルの一つに座って、買ってきたお昼ご飯を食べる。園内にはレストランもカフェもあるようで、これまた想像していたのとは違うが、途中のSAで美味しそうな柿の葉寿司を買ってきたから、屋外の空気の中で食べるのもいいだろう。薔薇の香りが鼻をくすぐる。
だが、人でいっぱいの賑やかなところはちょっと苦手なので、食べた後は自然探勝路と紹介されている山道に向かう。公園は南の方に大きく広がり、水辺の花を楽しむコースもあるようだが、今日は時間の制限もあるので、北エリアをぐるりと回ることにする。湿った山道を登って行く。この辺りは雪割草群生地と看板が出ている。春一番にはたくさん咲くのだろう。三角に尖った光沢のある葉が、茂った草の下に見えている。
イヌタデやミゾソバ、ミズヒキなどが咲く藪の中の道を登って行くとキバナアキギリが咲いていた。パックリと口を開けたように上下に開く花の形はなんとも不思議だ。その先端に糸のようにメシベが出ている。今年初めて出会えた花に大喜びして、私は足取りが軽くなった。
少し登ると、フォリーの丘という、見晴らしの良いところに出た。標高は180mとある。遠くに弥彦山がぽっこりと見え、越後平野が広がっているのが分かる。長岡のあたりは平野のはずれになる。
フォリーの丘でしばらく見晴らしを楽しんでから探勝路を奥に進む。途中の展望台(標高210m)や、案内図を眺めながら高低差のない稜線らしい道を進む。休日には園内バスが走るという舗装路が脇に見え隠れしている。
道々に顔を出すキノコは、我が家の裏山と同じ。長野市の北に位置する我が裏山は日本海気候のエリアになるのだろうかと夫はなんだか嬉しそうに呟いている。
途中の案内図を見ると、道はぐるりと西側へ回って、公園ゲートに降りていく。私たちは開かれた活動エリアを囲んでいる山道を一回りしてきたようだ。展望台を越え、バス道に沿うように続く道を行くと、森の中に白く光っている花がある。今を盛りに咲いているのは白いホトトギスだ。真っ白なホトトギスには気品を感じる。
思ったより時間をかけてのんびり歩いていたので、小千谷に向かう時間が迫ってきた。まだまだ先があるので少し急ぎ足になる。
緑の中であまり目立たないオヤマボクチが背高く咲いているのも横目で見ながらとっとこ歩いていると、あっ、ハグマが咲いている。大きな株に満開の花。とても地味な色合いだけれど、見たかったクルマバハグマの登場に、一気に嬉しくなる。車のような葉は思っていたよりずっと大きい。急いで写真を撮って、公園ゲートに向かう。ゆっくり歩いているはずの夫の背中はかなり向こうだ。追いついて、再びコスモスや、バラの中に設えられた道を進んでゲートを出る。
小千谷で用を済ませての帰り道は、真っ赤な夕焼けの空に向かう道だった。