今年は何回か白馬方面の裾野へ出かけた。いつも山の上の方には雲がかかり、あまり良いコンディションではなかったが、それでも広い山懐に入った気がして楽しめた。
そんな時、白馬から長野市方面を振り返ると、手が届くようなところにどっしりとした青い山並みが見える。「みねかたスキー場はどの辺かな」「旧八峰キレット小屋はどの辺に立っているのかな」と夫と顔を見合わせながら、スキー場跡には散策路がないのかと話していた。
みねかたスキー場の山頂部をスキーで歩いたこと、そこから気高いくらいの雪の白馬方面を見たことは素敵な思い出だが、私たちが滑ってからじきにみねかたスキー場は閉鎖されてしまった。山頂部には「旧八峰キレット小屋」が移転されていたから、そこへ行く道があったら歩いてみたいと思っていた。
三連休の最終日、青空が見えるから山歩き日和だ。だが、連休ともなれば観光客が多いだろう。人が行かないようなところへ行こうと、みねかたスキー場跡目指して行ってみることにした。行けるところまで歩いて来ればいいさと、呑気な私たちだ。
白馬長野有料道路を通って、中条、小川村、美麻を通り抜けていく。白馬の山並みが見えるサンサンパークで車を停める。山頂稜線には雲がかかっている。雲の下に見えている八方尾根や、五竜遠見尾根を見てから国道406号に向かって右折する。深い森の中の道を登り国道に出ると峰方はすぐだ。
スキー場跡の広い斜面にはススキが光っている。入り口にある神社は以前行ったときにはパワースポットと紹介されていたが、ご利益があるのか、私たちが到着したときにも何人かの参拝者が歩いていた。鳥居のところには大きな柱が立っていて、『旧縣社 雨降宮 諏訪社』とある。まずは参拝をしてと、本坪鈴(ほんつぼすず)を鳴らそうとすると、鈴から垂らされた房の間から大きな赤っぽい色の蛾が現れた。「君もお参りするのかな」とご挨拶。この神社の鎮守の森には巨大な杉が聳え、最も大きな御神木は樹齢1,000年に近いのではないかと言われているそうだ。
お参りをしてからぐるりと周囲を見回す。ススキの原には道は無さそうだが、林道が上がっているので、そこを歩いて行ってみよう。林道は国道に沿うように一気に標高をあげていく。周りはススキが茂っている。
ぐるりと大回りをしながら旧ゲレンデの脇を登っているようだ。ススキの向こうに新潟県境の雨飾山がうっすらと見えている。
林道から分かれている道を見つけると入ってみるが、灌木が茂る森に消えていく。かつてのスキー場リフト最終点らしいところには一面のススキが広がっていたが、道らしきものはない。結局林道を辿って、白馬夢牧場という看板が残っている広場に着いた。
牧場跡からはすぐそこに小屋が見えている。懐かしい旧八峰キレット小屋だ。数えてみたら、あれからすでに10年が経っている。小屋は今にも森に飲み込まれそうだ。ベランダらしい木の板も傷んでいる。少し感傷に浸りながら小屋を眺めた跡、展望を求めて先へ進む。しばらく歩くと、展望台らしい広がりがあり、白馬方面の木が切られている。だが、広場はススキなどの草で覆われ、切られたらしい木も再び伸び始めているから、もう少し経つと展望は効かなくなるかもしれない。
雲に遊ばれている白馬や五竜、鹿島槍などを眺め、もう少し先へ行ってみる。だが、道が下りになっても展望が開けるところはないから、引き返すことにした。途中旧五竜山荘にも寄ってみたが、茂った木々に遮られ、近寄るのもままならない。木の間越しに眺めてから道に戻る。
旧八峰キレット小屋の斜めになった板の上でお昼を食べる。この古い建物をせっかくここに移転したのに、このまま朽ちるに任せるのは勿体無いと思う。道があるのだから、ちょっと宣伝したら人が来るのではないだろうか。だがそれは、他の人気山麓のようにゴンドラと遊技施設いっぱいになるということだろうか。それもまた何だか寂しい気がする。古いものを古いままに残すなどということは、実はとても難しいことなのかもしれない。
さて、そろそろ帰ろうか。森の中は秋の気配がいっぱいだ。キノコがあちらこちらに顔を出し、木々はそれぞれの色や形に実をつけている。
もう花は終わりかと思うけれど、秋の花は道端にまだ残っている。小さい頃おままごとのお赤飯になったイヌタデの花も、よくよく見てみれば小さな花を開いているのが見える。
私たちは秋の森を満喫しながらゆっくり来た道を戻った。