戸隠ボランティアの会主催の自然観察会は学ぶことがたくさんあり魅力的だが、予定が合わない事も多く、なかなか参加できない。今回は夫に用があったので一人で参加することにした。と言いながら、朝9時の集合時間にちょうど合うバスがないので、夫に送ってもらう。後で聞けば、夫は帰る途中飯綱高原でキノコ採りをしたそうだ。ジゴボウ(ハナイグチ)のシーズンで、あちこちに出ている。
さて、無事集合時間に間に合った私はいつもいろいろなことを教えてもらえる講師の方と挨拶して歩き始める。今日の予定は9時から午後2時半まで。森林植物園の『八十二森のまなびや』を後に越水ケ原に入っていく。途中いくつかの史跡を案内してもらう。以前夫と何回か歩いたことがある越後古道の始点と言うのか終点と言うのかが、この越水ケ原にあった。そして修験者が通ったであろう戸隠奥社への道もここから分かれて行くが、かつては女人禁制だったそうで、女人堂の跡もあった。
史跡の説明を受けながら中社に到着。太い杉の巨木を眺めてから足神様に向かう。修験道の集まる戸隠ではあるが、一方に鬼女紅葉の伝説もあり、その史跡を伝える一つがこの足神様。私たちは足神様にお参りして小鳥ヶ池へと進む。 深い森の中に緩やかに登っていく道は豊かな土のクッションで歩きやすい。小鳥ヶ池の向こうに戸隠山が見えるが、雲が多い。しばらく池のほとりでゴツゴツした山肌を眺めてから先へ進む。
カラマツの森にはジゴボウと呼び親しまれるキノコ、ハナイグチがポコポコと顔を出している。戸隠の森は『妙高戸隠連山国立公園』の中だから・・・やっぱり採取はやめようと、横目で睨みながら歩く。それにしてもたくさん生えているなぁ。
森の中にはマタタビの実がぶら下がっている。葉の下に隠れるようにぶら下がっているので見つけにくい。すでに熟れて色が変わっているのもあるが、この実は生食には向かないようだ。マタタビ酒などを作る人も多いとか。
しばらく登ると、硯石に到着。天然の窪みがある、まさに硯のような大きな石。あいにく曇っているが、近くの一夜山や荒倉山は見えている。鬼女紅葉の伝説で、荒倉山で討たれた紅葉の手下おまんが逃げてきて、硯石に溜まった水に写った鬼のような自分の顔に驚き、改心したと伝えられているそうだ。話を聞いた人たちがつい水たまりを覗き込んでしまうのが面白い。
そこで小休憩をしてから鏡池に向かう。鏡池に着くと、雄大な戸隠連山を眺めながらランチタイム。水面はわずかな風に揺れていたが、大きな山と空が写っている。慌ててテーブルの上にあったパンをリュックに突っ込んできたけれど、広々とした絶景がおかずとなれば、何を食べても最高だ。
昼食後は鏡池のほとりを右周りに散策しながら森林植物園に向かう。ゆっくり森の中を観察しながら、朝集合したみどりが池に戻る。
途中サルナシの実を見つけ味見をする。見た目はマタタビと似ているが、こちらは美味い。果物のキウイのミニチュアという感じ。近くには可愛いベニテングも顔をのぞかせ、秋満載だ。
センブリが見事に花開いている。いろいろな花がすでに終わって実になっているこの季節を待っていたように、センブリは花を咲かせる。
近くにはフユノハナワラビもたくさん穂を伸ばしている。葉が厚めで茎や葉裏に毛があるのはエゾフユノハナワラビというのだと、今回教えてもらった。じっくり見てみると、毛がある。ここにあるのはエゾフユノハナワラビだ! シダや苔の世界も、そして粘菌も、奥が深くてなかなか踏み込めない気がするが、立ち止まってじっと見てみれば、どこまでも懐の広い自然の美しさに誘われているような気もする。楽しみは多くても良いではないかと言われているようだ。
木の葉がわずかに色づいてきた森の中は実りの季節。様々な色や形のそれぞれの実りの姿を見せている。そしてキノコも、様々な顔を見せてくれる。たくさんのキノコに出会い、名前のわかるキノコがあると嬉しくなるが、それはあまりにその機会が少ないからかもしれない。ほとんどのキノコは、撮影して帰って図鑑をひっくり返してみても名前がわからないことの方が多い。それでも変わったキノコを見つけると「わぁ〜」と声をあげ、いつの間にか顔が綻んでいる。
午後2時半を回って、解散。みんなの顔が朝より表情豊かな気がするのは自然の効能か。おそらく私もちょっといい気分の顔になっているだろう。奥社のバス停に向かって一人歩きながら両手に一個ずつマタタビとサルナシの実を確かめる。留守番の夫へのお土産だ。