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霧の中の那須岳は思い出の風景(栃木県)

 牛ヶ首 1730m、殺生石 1048mそして茶臼山 1915m、朝日岳 1986m

2024年10月4日(木)プラス1970年8月30日(日)


photo1茶臼山方面が見えた
茶臼山方面が見えた

100人以上乗れるという大きなロープウェイが霧の中を降りてきた。さっき登ってきた道から茶臼岳と、そこに向かうロープウェイが見えたのに。ロープウェイの山麓駅が森の中に白く見え、その向こうに尖った山は朝日岳だろうか。 かすかに青空が広がり、期待が膨らんだのだが、山麓駅の駐車場に車を停めた時は霧が、いや雲かもしれない霞に包まれていた。

photo2ロープウェイの駅の向こうに
ロープウェイの駅の向こうに

国立公園那須岳、初めて登ったのは学生になったばかりの頃。記憶は点のようになっていて、悪天候の中の単独行だったから写真もほとんどない。夜行電車に乗って黒磯駅に着き、始発バスまで駅のベンチに新聞紙を広げて横になったことは鮮明に覚えている。あちこちに同じような登山者が横になっている時代だった。

photo3雨と霧と煙の茶臼岳山頂19700830
雨と霧と煙の茶臼岳山頂 1970.8.30

峰の茶屋にはお爺さんがいて、彼の話す言葉は9割がた理解できなかった。イントネーションが違っていて、外国語を聞いているようだった。だが親切なお爺さんに教えられて茶臼岳の山頂を目指した。今、峰の茶屋は無人だという。

photo4茶臼岳地獄から上がる噴煙19700830
茶臼岳地獄から上がる噴煙
1970.8.30


懐かしい那須岳に登ってこようと那須湯本温泉に宿をとって出掛けてきた。秋に入って重なったいくつかの予定の合間を見て予約したが、お天気は良くないみたいだ。

一日目は高速道路を直走り、那須のホテルに。上信越自動車道から北関東自動車道に入り、東北自動車道に乗ってからは那須ICまでまっすぐ。途中わずかに通る関越自動車道も入れると、四つの高速道路を走ることになる。

那須高原は豊かな森の広がりと、歴史を感じる佇まいの街並みが広がっていて気持ち良いところだった。那須街道と呼ばれる県道17号線は、昔も始発のバスに揺られて通ったと思うが記憶がないだけなのか、変わったのか。

息子が中学時代に100年の森を紹介するラジオ番組の録音のため柴田先生(※)と一緒に訪れている。私はラジオの中の音としてしか聞いていないのだが、今見る綺麗な森はその時の深い音を思い出させてくれる。

話は逸れてばかりだが、ホテルに到着するとまたまたびっくりすることが待っていた。門のところに立つのは首の長〜い恐竜。車を停めて歩く道には大きな恐竜の足跡が続き、周囲の深い森の中に何頭もいる恐竜が吠える。「はて、この辺りは恐竜で知られたところだったかしら」と、夫と顔を見合わせる。どうやらホテルの社長さんのアイディアらしい。最終日は土曜だったから子供連れの家族がどっと押し寄せて、なるほどと思わせられた。

photo5那須高原道の駅「友愛の森」
那須高原道の駅「友愛の森」

photo6恐竜がいっぱいのホテル・ブランヴェール那須
恐竜がいっぱいのホテル

photo7部屋の外は森・ブランヴェール那須
部屋の外は森

さて本題に戻ろう、一晩明けて窓の外を見ると雨がぱらついている。せっかくここまできたのに・・・と泣けてくる。だがこの後曇りになるらしいよと、天気予報を見ながら夫。とにかく山の支度をして行ってみよう。昔ガスっていて見ることができなかった茶臼山を見てきたいものだが。ロープウェイの山麓駅目指して登っていくと、空が明るくなってきた。目の前に大きな山が聳える。途中までロープウェイの線が登っていくのが見えている。茶臼岳だ。山頂部分は崖のさらに奥だが、山の大きな姿が感じられる。右には尖った山容も見える、朝日岳だろうか。さらに登っていくと岩が切り立ったような崖が続く様子が見える。だが、雲が流れてきて、景色は見る間に閉ざされていく。

こんな天気だけれど、停まっている車は多い。私たちと同じようになかなか予定が立てられない人も多いのだろう。靴を履き替えてロープウェイに乗る。111人乗りという大きなゴンドラだ。残念ながら窓の外の景色は濃いヴェールの向こう。

photo8大きなロープウェイに乗って:那須岳
大きなロープウェイに乗って

photo9山頂駅の前も深い霧:那須岳
山頂駅の前も深い霧

山頂駅で雨具を着る。外に出ると風が強い。ロープウェイの係員からは強風と雷で運行休止することがあると注意喚起のアナウンスがあった。

霧が深い、風が強い、だが雨にはなっていない。私たちはゆっくり足元を確かめながら登り始める。道はよく整備されている。登山路の脇のお花畑は全て茶枯れている。昔はこの道を歩いていないから、興味津々。だが何も見えない。 茶臼岳と牛ヶ首の分岐点に着いた。時々強い風が来て足元をさらうなか、茶臼岳に向かって登り始める。しばらく登って、稜線の上の登山道らしくなったところに立つと、横殴りの風が来る。突風に煽られて足が持っていかれそうになる。「これでは危ないね」「どうせ行っても見えないし・・・」潔く諦めることにした。

photo10茶臼岳への登山道:那須岳
茶臼岳への登山道

photo11山は見えない:那須岳
山は見えない

分岐まで戻ると風は和らぐ。夫は「牛ヶ首まで行ってみようか」と言う。茶臼岳に行けなくて落ち込んでいた私はもちろん一も二もなく賛成。トラバースぎみの道は風当たりが弱いのか、歩きやすい。しばらく行くとさっき分岐から牛ヶ首に向かったグループが引き返してきた。岩の道が続くので牛ヶ首まで行くのを諦めたそうだ。晴れていれば楽しいコースだと思うが、時折来る突風と、じっとり湿ってきた深い霧に遮られた感じか。

photo12シラネニンジンかな:那須岳
シラネニンジンかな

私たちはぼちぼちと進む。時々ヴェールが薄くなって積み重なった岩が見えたり、足元深く切れ落ちている崖が見えたり、どんな時でも楽しみはある。

photo13草紅葉がきれい:那須岳
草紅葉がきれい

photo14大きな岩、溶岩かな:那須岳
大きな岩、溶岩かな

photo15火山らしい風景:那須岳
火山らしい風景

photo16大きな岩がゴロゴロ:那須岳
大きな岩がゴロゴロ

photo17本当に何も見えないね:那須岳
本当に何も見えないね

photo18岩が累々と:那須岳
岩が累々と

山道の脇には緑濃いガンコウランの群落に隠れたように黒い実がついている。シラタマノキは露をまとって光っている。そしてわずかに紫を残すリンドウもあった。ほとんどの花は茶色く枯れていたが、まだ紫色が残る花も見つけた。

photo19ガンコウラン,シラタマノキ:那須岳
実が可愛い

photo20オヤマリンドウ,ヤマハハコ:那須岳
秋の花

昔、雨の中を三本槍に向かって歩いていたとき、足元に続くリンドウの紫がとても印象的だった。茶臼岳の山頂で知り合った3人パーティと一緒に歩いていたが、雨足がどんどん激しくなって、ついに北温泉への道を下山することにした。一人だったら困って引き返したかもしれない。朝日岳から峰の茶屋へのトラバースはツルツルの大きな一枚岩があって怖かったから引き返さなくて良かった。

北温泉へ下る「中の大倉尾根」は展望の良い道だそうだが、あの日はひたすら雨の中、下りは川の中を滑り降りるようにして降りたことを覚えている。北温泉にいたおばぁさんが「狐に騙されないように帰りなさい」と何度も言って送り出してくれたが、その「狐に騙される」意味が今回分かった。那須には九尾の狐の伝説がある。

photo21北温泉へ下山19700830:那須岳
北温泉へ下山 1970.8.30

さて話を戻そう。登ったり、降ったりしながらも私たちは牛ヶ首に着いた。周囲は真っ白。「ほら、茶臼山が大きいよ〜」と、真っ白い空間を指差すのは負け惜しみ。晴れていればここに大きく見えるはず。そうは思っても今は白い世界に風が流れるだけ。長居は無用だ、この強風でロープウェイが止まってしまったら大変。

photo22牛ヶ首への登り:那須岳
牛ヶ首への登り

photo23牛ヶ首の標識が見えた:那須岳
牛ヶ首の標識が見えた

来た道をゆっくり引き返す。帰りはいつもちょっと余裕がある。道を「知っている」から。だが、それは油断にもつながる。山での遭難が多いのは下山の時という。危険な道ではないけれど、うっかり躓いて転んだ場所によっては深い崖に転がってしまうような危ないところもたくさんある。この道は濡れていてもあまり滑らない岩なのでありがたいが、それでも注意深く一歩一歩進んでいく。

photo24赤い土も溶岩かな:那須岳
赤い土も溶岩かな

photo25緑の中の草紅葉がきれい:那須岳
緑の中の草紅葉がきれい

茶臼岳への登山道に近づいたらまた風が強くなってきた。分岐に着くと吹き飛ばされそうな風に煽られる。やっぱりここは風の道なんだ。今歩いてきた、山を巻くような道は風がいくらか弱いのだ。そして、霧の粒が大きくなってきたようだ。雨粒が落ちずに空中にばらまかれている感じだ。

photo26掴まっていないと飛ばされそう:那須岳
掴まっていないと飛ばされそう

photo27強風だけどロープウェイは運行:那須岳
強風だけどロープウェイは運行

私たちはロープウェイ山頂駅に向かって降りる。ありがたいことにロープウェイは動いていた。だが、強風のため速度を落として運行している。麓近くなると風が弱まり、速度は元に戻った。

なかなかハードな山歩きだったが、まだまだ油断はできない。車のフロントガラスの向こうは真っ白。ライトをつけてゆるゆると走る。

photo28深い霧の中を下る:那須岳
深い霧の中を下る

時間が早いので、途中の殺生石(せっしょうせき)に寄って行こう。九尾の狐の魂が飛んできて石になったと伝えられるところ。付近一体に噴出する火山性のガスによって鳥獣が命を落とす為、鳥獣の命を奪う石とも言われてきたそうだ。溶岩が広がる殺伐とした谷の奥にある大きな石を殺生石と言い、ここは国指定名勝となっている。木道を歩いていくと硫黄の匂いが強く、昔の湯の花採取場所があった。霧の中を進んでいくと、草の中に何体もの石地蔵が見える。みんな赤い頭巾をかぶっているが、草に埋もれそうなところもある。このお地蔵様は皆大きな手で合掌をしているのがちょっと独特だ。「千体地蔵」様だそうだが、実際は800体近い数らしい。お地蔵様と一緒に手を合わせ、車に戻った。降るにつれ霧は薄くなったが、ホテルに戻る頃には雨粒が落ちてきた。

photo29殺生石もガスの中:那須岳
殺生石もガスの中

photo30湯の花採取跡:那須岳
湯の花採取跡

photo31荒涼とした溶岩の広がりに千体地蔵:那須岳
荒涼とした溶岩の広がりに千体地蔵

photo32今日の山頂 牛ヶ首:那須岳
今日の山頂 牛ヶ首

茶臼岳には登れなかったが、悪天候の中、牛ヶ首まで行ってくることができた。真っ白な世界の山頂も又良しかな。





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