暑い日が続いたからか季節感が薄れてしまったようだ。ちょっと涼しくなったから、もうキノコがいっぱい出ているのではないか、センブリが咲いているのではないかと気が急く。実際の山はまだ夏の名残を残しているのに・・・。
公園に近づいていくと地元の小学生がゾロゾロ歩いている。遠足か。彼らより先に山頂を踏んでしまったほうがいいぞと、旧道を一気に山頂へ向かう。子供たちは元気でいいのだが、すれ違ったりすると大変だ。「こんにちは」の連続になる。
子供の頃に自然の中に身を置いて、街中では感じられない気配に浸るのはとても良いことだと思うのだが、それは『一律に』とは無縁のはず。子供も大人もそれぞれの姿がある。『個性を大切に』は、いつも掛け声だけのような気がする。
と、話は横道に逸れてしまったが、苦しそうな子供の姿を見たくないので、先を急ぐ。
最近、何回登っても妙高山の姿が見えない。いつも雲の向こうになっている。すぐ近くの飯縄山もあまり全体が見えないことが多い。今日も山頂に雲を乗せている。
今日はセンブリや、ウメバチソウの様子を見ようと、やってきた。山頂から稜線を辿ってモウセンゴケ群生地に行く。この夏は雨が多かったからか、道の脇に赤やクリーム色のキノコがたくさん顔を出している。アンズタケに似ているが、ベニウスタケ?トキイロラッパタケ?・・・しまった、もっとよく見てくればよかった。大きな円を描くように斜面にびっしり生えているのも見たから、トキイロラッパタケかな。とにかく、今年はとても多い。至る所にオレンジ色やクリーム色の塊が顔を出している。
先日登った時に、ウメバチソウは可愛い白い玉を掲げていた。一本の茎に一個の白い蕾が乗ってツンツンと立っている。直径5ミリくらいの純白の蕾が並んでいる。全く変化がないように見えるが・・・ちょっとは大きくなっているのだろうか。白い蕾の数が増えたような気もする。
センブリの蕾はだいぶ膨らんで、白い花が開いているのもある。紫のラインが入っていてその繊細な色の変化に驚く。 ウメバチソウとセンブリの様子を見たので、さらに奥へ進むことにする。栗のイガがたくさん落ちている所に見知った顔があった。毎日のように登っているヤマさんと久しぶりに会う男性。二人はイガを割って栗を拾っている。珍しく収穫が多いと嬉しそうだ。頭上を見上げると、まだ緑濃いイガがたくさん見える。「これからだね」。「強い風が吹いた日は朝一番に登らないとみんな拾われちゃうよ」などとたわいもない話に花が咲く。
二人と別れて、私たちはさらに奥へ向かう。この辺りには熊が出ると聞くから、熊鈴を鳴らし始める。
私の目的はサルナシの実。まだちょっと早いかな、でも味見くらいはできるかな。以前実をつけていた木は枝が落ちてしまった。かろうじて手が届くところを何度か見てきたが、雄花だけが咲いていたようだ。雌花を見つけられなかったが、高いところにはあったかもしれないと、今日は夫と二人で目を凝らしてみるが、実は見つけられなかった。
さらに奥にたくさん実をつけている木を見つけていた。今日はそこへ行ってみよう。緑色だった実は随分茶色く実って来たようだ。家に帰って割ってみようと数個もらう。大きなものを取ろうとすると、小さなものがついてくる。可愛いので、その小さな実も持って引き返そう。
だが、そろそろお昼時だ。ポカポカ気持ち良い道の真ん中に戻り、ここで小休止をしよう。車が来ないとはいえ舗装道路の真ん中にどっしり座り込むのは不思議な気分だ。爽やかな大きな木の影で、持って来た煎餅を齧る。ママコノシリヌグイ、ヤクシソウ、ノコンギクのような紫がかった白い花、周囲には花がいっぱいだ。ナギナタコウジュも咲き出した。
小さな花たちを見ながら休んだ後は一気に降り、粘菌探しに行こう。雨の後たくさん出てきた粘菌も今は狭間の時期なのかあまり見当たらない。などと言いながら歩いていたら、苔の中に小さな赤いつぷつぷが見えた。「イクラだ」「出てきたね」、イクラというのは見た目がイクラそっくりの粘菌ヌカホコリの仲間。赤く光る丸い粒がびっしり並んでいるとイクラにそっくり、でもまだようやく顔を出したばかりなので、それほど広がってはいない。赤いのや、オレンジ色がかったのやらがあちらこちらに見えてきた。
粘菌にも会えたので、元気が出てきた。お昼の時間はだいぶ過ぎたけれど、家に帰って見つけたものの話をしながら遅いお昼を食べるのもまたよし。撮った写真を並べて頭をひねるのもまたよしだ。
数日後、センブリやウメバチソウの変化を見ようと再び地附山に登った。先日あっちこっちに出ていたキノコの写真を撮らなかったので、今日は撮って帰って調べよう。あるある、今日もあっちこっちにまとまって出ている。もうカサが崩れそうなのや、地面を盛り上げて顔を出してきたのやら、たくさん出ている。色はオレンジ色、クリーム色、ほとんど白のものまである。裏を見るとカサの部分のヒダがはっきりしないからこのキノコはトキイロラッパタケだろう。
キノコや粘菌を観察しながら山頂に到着。山頂には西澤さんがカメラを据えてタカの渡りを待っていた。西澤さんが公園の管理人だった時に植えたフジバカマに、アサギマダラが数頭やってきているそうだ。公園にあるミニ山野草園は西澤さんが手入れしてきたものだが、今はアサマフウロやベニバナウメバチソウがきれいに花開いている。
西澤さんとしばらく花や鳥の話をしてから、私たちはモウセンゴケ群生地に向かった。途中ヤマさんとスーさんに会って、またまた話。今日は月曜なのに賑やかな地附山だ。
モウセンゴケ群生地に差し掛かるとセンブリがたくさん開いている。まだ花は少ないが、蕾がたくさんついているので、順番に開いてくるだろう。センブリの花を見ながら奥へ進むと、モウセンゴケの実が立っている間にウメバチソウも純白の花を開き始めた。ウメバチソウはまだ小さな丸い蕾も多いが、少しずつ膨らんでくる様子がわかる。
スキー場跡から、モトクロス練習場にまわっていくと、数台の大きなバイクが停まっていた。数人の若い人たちが切り株に座ってお弁当を食べている。これから練習が始まるのかな。
森にはゴマナやノコンギクなど、キク科の花が名残を惜しむようにいっぱい咲いている。
公園への帰り道、急ぎ足で歩いているとガサガサッと大きな音がして動くものがいる。蛇かなと思って見ると大きなトカゲだった。緑色に光った太いトカゲは実はニホンカナヘビという名らしい。そっと近づいてもじっとしているので珍しいと思って見たら、口に餌を加えている。カマドウマかな、大きな昆虫をしっかり咥えているから動かない様子。しばらく観察してから「お食事の邪魔をしてはいけないね」とその場を去った。