戸隠方面への道はゴチャゴチャした宣伝がなくて気持ち良い。奥深い森林の中を走っていく。道の左右にどこまでも森が続いている風景はとても気持ち良いが、それが長野の市街地から30分も走らないところに広がっているのだから嬉しくなる。
森林公園あたりは何度か歩いているが、鏡池まで足を伸ばすのは久しぶり。近づくにつれ青空が広がって、戸隠山の雄大な姿が木々の間から見えてくる。鏡池からも綺麗に見えるだろうとワクワクする。
森林植物園の駐車場に車を停め、みどりが池に向かう。池の向こうに山が聳えている。雄大な景色に目をやりながら湿原に向かって歩いていく。高台園地からまっすぐ外周の小径に続く道が数年前から不通になってしまったので、湿原の中の道を通ってモミの木園地から森に入っていくことにする。
雨が多かったからか、戸隠もキノコが豊富だ。真っ赤なキノコ、黄色く光っているキノコ、白く大きいのやら、茶色いのやら、名前を知らないキノコがポコポコ顔を出している。中には1ミリもないようなビョウタケの仲間らしいのもたくさん顔を出していて、喜んだり、悩んだり。
写真を撮って家に帰り、図鑑で調べるのだが、ちっともわからないことが多い。キノコの成長は変化に富んでいて、地面から顔を出した時、すくすく伸びる時、そして大きくカサを広げて立派になったかと思うとカビが生えたりくにゃっとヘタレたり、あっという間に姿が変わる。図鑑には立派な成菌時の写真しか載っていないことも多く、途中経過やカサの上から下からの姿全てを教えて欲しいと、にわか観察者はわがままだ。しかも、このにわか観察者は、キノコは個体差が大きいじゃないかと、ぶつぶつ呟く。
というわけで、あっちにしゃがみ込み、こっちの木の影を覗き込みしながら、ゆるゆると鏡池に向かう道を歩く。見つけたキノコの写真を撮ってはいるが、名称不明のものが圧倒的に多い。それでもいつかふと分かることもあるので、写真と頭のメモに書き込んでいく。頭のメモの方はあまり当てにはならないけれど・・・。
外周の小径を行くと太く魅力的な木がたくさんある。大きな木が枯れて立っているところには以前粘菌がいた。裏側に洞があって、そこに何種類かの粘菌がいたことを思い出して近づく。覗き込むと、いた。ヘビヌカホコリだ。まだ白い未熟体もある。嬉しくなってここでもゆっくり撮影タイム。雨が続いたので、いろいろなところに露が残る。露に濡れながらカメラを覗き込むが、露は玉のように美しく苦にならない。
何度も歩いた道を進む。レイジンソウやトリカブトが揺れる。フユノハナワラビも胞子嚢穂を立てている。木の枝先には綺麗な青い実、サワフタギだ。自然の中には綺麗な青色が少ないので、青い光を見ると惹きつけられる。せせらぎの脇のサワフタギの実を見ながら鏡池に向かう。
足元にはミゾソバ、そしてツリフネソウ。鏡池の近くに行くとアカバナもまだ咲いていた。そしてミゾソバと混じってアキノウナギツカミも見つけた。蕾が多い。アケボノソウが花開いてきた。花びらの中にある点が曙の空の星に見えたというから驚きだ。よほど想像力の豊かな人が山の中にいたのだろう。
急な坂を登ると一気に目の前が開ける。白いキク科の花が一面に咲いている。振り返ると戸隠連峰がググッと迫っている。あいにく風があり湖面は波立っているから、逆さ戸隠の姿は見られないが、秋の気配を感じさせる山は奥行きがあり、一段と高く聳えて見える。私たちはしばらく湖畔に立って山を眺めていた。
青空に映える山を眺めていたら、お腹が空いていることに気がついた。夫がソバクレープの看板をじっと見ている。食べようか。鏡池を見ながら美味しい蕎麦クレープに舌鼓を打つ。雲は刻々と形を変えているが、空は抜けるように青い。
お腹がいっぱいになったところで歩き始める。帰りは外周の道をまっすぐ進み、随神門に出る。奥社の参道は観光客が引もきらない。私たちはそうそうにみどりが池に向かう道に向かった。みどりが池では男性が茂ってきた水草を除去する作業をしていた。水中に陽光が入らなくなると酸素供給ができなくなってしまう。大変な作業にお疲れ様と挨拶してから車に戻った。