午後は雨かもしれないと言いながら山靴の準備をする。台風が居座って雨が多かったからキノコにとって吉と出るか凶と出るか・・・などと言いながら歩き始める。キノコだけでなく、粘菌も激しい雨に流されてしまうことがある。
山道を歩いているとあちこちに小さな倒木が見える。やはり、山の雨風は町より激しいのかもしれない。
山道にはどんぐりがたくさん落ちている。青い葉をつけた未熟なものも多いのは、風が強かったからか。
粘菌は期待できそうもないからと、イシミカワの花を見ながら旧道を登っていく。ツル植物のイシミカワは棘があるので気をつけて近づく。見事な三角形の葉の先に蕾の塊がたくさんあるが、その隣には綺麗な青く光る実があって、花はどこに咲くのかと首を捻ってしまう。よくよく見ると、蕾の塊の中に小さく半開きの花が見える。全開しない小さな花に、一体どんな虫が来るのやら。
森の中にはカビてしまったキノコがあっちこっちにたくさんある。白いカビは時に青白く見え、一瞬「青いキノコか?」とドキッとする。一面黄色くカビに覆われたキノコもある。もちろん真っ白な美しいキノコもたくさんある。タマシロオニタケ、ドクツルタケ、美しいけれど猛毒だ。
大きなのはカサが赤や黄色で裏は管孔、柄が太くて網目模様がある。ベニイグチやキイロイグチもあるが、濃い緑色や黄土色のもあって、ミドリイグチというらしい。カビが生えてへたれている巨大キノコはニガイグチだろうか。
森の中を歩いていたら、スッと目が引き寄せられた。まん丸のカサが落ちているような白いキノコ、一瞬またカビかなと思ったが、カサに青い模様がある。そっと近づいてみる。誰が齧ったか、小さな齧り痕があるが、その痕が青い。やっぱり、ルリハツタケ。ずっと会いたいと思っていたキノコ、地附山で会えるなんてすごいね。こんな時「イケさん(地附山の主ともいわれた山仲間、今年2月亡くなる)に教えてあげたいな」と思ってしまう。
雨が多かったせいか、あちこちにハリガネオチバタケが出ている。すっくと伸びた黒く細い柄の上に可愛いカサをつけた姿はランプシェードみたいだ。赤いランプシェードはハナオチバタケ。そっくりな二つの違いは実は色ではなくてカサのヒダヒダの数なのだそう。ひだが細かいのは色が茶色でもハナオチバタケらしい。
たくさんのキノコたち、元気に出てきたばかりのや、土に還りそうなのを見てから数日後、二日続けて地附山を訪れた。一日目は夫と、二日目は一人で。
まだ前日の雨露が残る草の中を、キノコや粘菌を観察しながら山頂に行くと、地附山公園の管理をしていた西澤さんにばったり。西澤さんは野鳥に詳しく、タカの渡りを観察するために登ったそうだ。青い蜂が来ないかとキョロキョロする私たちと、ゆったり空を眺める西澤さんと、しばらく山頂で話をしていた。残念ながら、この日は青い蜂も渡りのタカも見ることができなかった。
その翌日は夫が忙しく、私は一人で再び山頂へ。駒弓神社に挨拶してから歩き始める。三連休の真ん中、日曜だったせいか、山頂へ行く道では何人かの走る人たちに会った。
山頂で少しの間青い蜂を待ってみたが来ないので、奥のモウセンゴケ群生地へ行ってみる。ウメバチソウやセンブリの花はまだだろうが、蕾は膨らんだかな。ウメバチソウは数ミリの白い蕾を掲げ、センブリは薄緑の蕾が見えてきたところ。花が開くのはもう少し後か。
山は秋が深まった様子で、ミズヒキが太陽を受けて光り、シラヤマギクやアキノノゲシが咲いている。タデの仲間も数種咲いているが、種類が多いので同定が難しい。
目を楽しませてくれるのはやはり秋のキノコ、そして粘菌。おみやげ写真をいっぱい撮って帰った。
今年は雨が多いからか、キノコが豊富だ。たった3回登った間に青いキノコを3個も見つけたのは初めてのこと。ルリハツタケは初めて、そしてソライロタケ。ソライロタケは、数年前イケさんと一緒に発見した。このキノコを見るたびにきっとイケさんのことを思い出すのだろうなぁと、感慨深い。今年は同じ日に2個のソライロタケを見つけた。2個とも小さい個体だったが、綺麗なブルーに輝いていた。
「来年も出てきてね」と声をかけながら、そっと写真を撮って別れる。自然の姿はそのままにとどめられるものは無いことを噛み締めながら。