9月も半ばに差し掛かっているのに、暑さは一向に去らない。そろそろ涼しいところで休みたいと体が言っているのが分かる。だが、遠出するほどの時間の余裕も、気持ちのゆとりも無いままに日々が過ぎる。
夜になると激しい雷雨になり、朝から猛烈な暑さになるこの頃では粘菌も展望も期待はできないだろう。
分かってはいるけれど、もしかしたらということもある。ルリモンハナバチにも会えるかもしれないと、夫は行き先を茶臼山に決めたようだ。
山道を登り始めると植物園方面の迂回路という看板があったので、茶臼山動物園のモノレールがある北口への道に入る。
この季節はひたすら暑い植物園にはほとんど車もなく、歩いている人も見えない。暑い暑いと言いながら、まずは植物園の中を歩いてみる。カリガネソウがピンクに青に咲いている。薬草園の花はほぼ終わっているが、名札がついているので、知らなかった花に出会えることがある。白いジャコウソウが咲いていたので近づいてみると、白花アシタカジャコウソウと名札がついていた。クサボタンも、「見つけた」と思ってその足元を見ると、サドクサボタンとある。分類上の違いはあるのだろうが、ちょっと見ただけではわからない。フウリンウメモドキの実は真っ赤に光っている。
あまり人が来ないと見えて、蜘蛛の巣が張り巡らされている中を登り、遊歩道に出る。夫は蜘蛛さんが一生懸命作った巣だからと、精一杯避けながら歩いていく。私は落ちていた木の枝を回しながら道を開いていく。
汗を拭きながらしばらく登り、動物よけの扉を開けて登山道に出る。激しい雨が続いて山が崩れたのか、工事車が並んでいる。ありがとうございますと挨拶しながら横を通って茶臼山登山道に入る。ツリフネソウが濃いピンクの花をぶら下げてたくさん咲いている。フユノハナワラビも出始めた。その辺りにはツチグリがたくさん転がっている。そしてまだ小さいツチグリも地面とくっついて何個も顔を出している。
私たちは腐りかけた倒木を見ながら進むが、粘菌はあまり見つからない。激しい雨に流されたのだろうか。アキノギンリョウソウや、白くカビたキノコたちがたくさんいる。横目でキノコを見ながら登っていくとようやくツノホコリやマメホコリ、クモノスホコリなどの粘菌が見られた。
しばらく森の中で粘菌を観察してから北アルプスの展望台へ向かう。予想はしていたが、アルプスは雲の中。目の下に里の田が黄色く染まっている。丸太に腰掛けて風景を眺めながら持ってきた煎餅をかじる。小休憩。ボリボリ煎餅を食べながらふと足元を見ると、私たちがこぼした煎餅のカスを一生懸命運んでいる蟻が目に入った。夫は「こっちの方が好きじゃないかな」と言いながら新潟のハッカ糖を出して袋の隅に落ちているかけらを落とした。すると、思惑通り蟻たちは白いハッカ糖もせっせと運び始めた。
自分の体より大きいのを木の枝や落ち葉を越えてどんどん運んでいく。途中で落っことしてしまっても、またしっかり咥えて動き出す。そのうち、大きな塊を二匹で運んでいるのを見つけた。「蟻も共同作業をするんだね」。蟻の仕事ぶりは見ていて飽きず、私たちはしばらくそこにいた。展望台に来て、足元にばかり目をやっているのもなんだか笑える話だが・・・。
さて、そろそろ行こうか。森の中の山頂には大きなキノコがあちこちに転がっているように見える。柄が太くしっかりしている、イグチの仲間だろうか。キノコ観察をして、またまた時間が経ってしまったが帰ろうか。
登山口近くまで下りたら、目の前を青い光が横切った。「何?あ、ハンミョウ」道路に降りたのは綺麗なハンミョウだ。道教えとも言われるハンミョウの飛ぶ後を追いかけて、数匹の姿を見ることができた。
さて、ルリモンハナバチにも会えないかとしばらく待つことにする。今日は歩いている時間より止まって眺める時間のほうが長いねと笑い合う。しばらく待ったが来ないので、帰ろうか。二人でリュックを背負う。その時、綺麗な青い光が目の前に。「あ、きた」。二人が同時に声を出した。
一面ブルーに輝く青い蜂。目の前の花をツンツンとつつくようにして、あっという間に去っていった。「今のはなに?」「メタリックブルーだったね」。二人とも思わず目を目張ったが、あっという間だったのでカメラを構える暇もない。この青色の蜂はオオセイボウというらしい。動きが早いので、なかなかカメラに収められないとか。青い光に会えた興奮を照らすように足元には小さなランプシェードのようなキノコが並んでいた。