大型台風の影響で8月末の予定を延期した後輩が、9月初旬神奈川からやってきた。忙しい仕事の合間に色々な考え事や心配事、そして一方で楽しかった夏休みの旅行のことなど、話すことは切りもないとばかりにたくさん話をした。
2泊して帰る日、せっかく晴れているのだから公園の森の中を歩いてから帰るのもよかろうと、すぐ近くの散歩道、城山公園に誘った。桜で有名な城山公園には県立美術館と東山魁夷美術館があるから、他の季節にも訪れる人は多い。
後輩は山歩きにも興味を持ち始めたと、前に来た時は大峰山、地附山を歩いたのだが、今回は話すことがたくさんあるからと山の靴を持ってこなかった。
近くに住む私たちにとって城山公園は庭のようなもの、頻繁に歩いている。四季を通して楽しめるところだが、暑い夏はちょっと敬遠気味。新しくなった公園は大きな木が切り倒され、さっぱり何もなく、日陰も無くなってしまった。だが、坂の上の桜並木や、山頂に立つ昔から親しまれてきたらしい県社(けんしゃ)と呼ばれる神社あたりにはまだ大きな木も残り、多少の風情がある。
桜の季節には人で溢れる城山公園だが、真冬にも可憐な花を咲かせる桜が数本ある。寒桜というのか、冬桜というのか、雪の日にも咲いている桜は儚げで美しい。目の高さの枝にヤドリギを見つけたので、花が咲くのを待って見に行ったり、いつも通る垣根のコノテガシワ(センジュ)の花が咲くのを見たり、季節ごとの楽しみがある。5月には大きなユリノキにチューリップのような花が咲く。
さて、暑い夏を越えて、秋口に入った城山にはどんな花が咲いているだろう。私たちは新しくできた神社庁から県社に登った。この神社の名称はとても長くてしかも漢字ばかりで分かりにくい。大きな社名の看板が立っている。以前孫と登った時にその読み方を調べた(※)が、記憶に残っているだろうか。看板を睨み、首を捻りながらもなんとか思い出すことができた。標高差はわずかだけれど、県社の稜線から長野市街地を見下ろすことができる。後輩は「わぁ〜すごい」と喜んでいる。
残念ながら夏のもやい空か、あまりくっきりとは見えないが、遠くまで開けた善光寺平の様子はわかる。
今咲いている花は少ないが、遠くの山を見ながら城山の稜線を一回りする。また違う季節にも来ることができるといいねと話す。話しながら私は今年の城山の花々を思い出している。
テイカカズラは花期が長いので、今も咲いている。傍には長い実もぶら下がっている。花と実が同時に見られるのが面白い。茎から出る付着根が壁や大きな木などに食い込んで絡みついてよじ登っていく。恋の執心で恋人式子内親王の墓に絡みついたという定家の化身というのが名の由来だそうだ。由来を聞けば日本原産種というのも頷ける。
大きな木が無くなった城山公園の広場には植栽の秋の花が今を盛りと賑やかだ。オミナエシやオトコエシ、キキョウにオニユリ。植栽とはいえ、丈高い秋の花々は広い公園の一角に高原のような雰囲気を作り出している。
その草ぐさの足元にはオトギリソウがそろそろ終わりか。シナノオトギリかなぁとガクや葉裏を見るが、やっぱり同定することはできなかった。シナノオトギリの特徴は葉の淵に黒点が並び、葉の中央に小数の不明瞭な黒点と明点があると記述してある図鑑を見たが、実物を見ても分かりにくい。葉の裏に黒い点が見えるが、少数ではなくたくさんある。種類の多い花の仲間は、はっきりした違いがわからないものも多いのだ。
自分の不勉強を棚に上げて言うのだけれど、細かい分類は専門家に任せよう。細かい分類に頭を悩ませるよりも花に会って喜ぶ方が性に合っている。
ミソハギはそろそろ終わりか、ヤマハッカにワレモコウ、そしてアレチヌスビトハギも草の原に赤を散らしている。 絵を見てから帰るという後輩と、美術館の入り口で別れ、私たちはゆっくり城山の花々を眺めながら家に向かった。