大きな台風の影響で大雨強風が続いた。雨の合間を見て庭仕事をしながら空を睨む。東京へ出かける予定があるから、そこに合わせて花探しに行こうという計画は随分前から考えていた。台風は熱帯低気圧になって、なんとかギリギリ大雨は前日までで落ち着いたようだ。
1日は東京で過ごし、雨の中ホテルに入った。翌朝はカラリと青空になった。
横須賀線に乗って大船まで行く。大船駅で友人と待ち合わせ、懐かしい湘南モノレールに乗って西鎌倉で降りる。
鎌倉、江ノ島あたりは何度も歩いたところだが、ずいぶん年数が経って、すっかり変わってしまった風景にキョロキョロする。ここは友人にお任せで、ついて行くことにしよう。
住宅街を少し歩くと、森に突き当たる。鎌倉広町緑地と看板が出ていて、園内には深い森が続いている。私たちはまず管理棟にお邪魔し、地図をもらってから歩き出す。見たい花はいくつかあるが、二人とも、この緑地には詳しくない。友人はだいぶ前に一度来たことがあるそうだが、季節も違えばルートも違うところを歩いたらしい。
雨が続いたからか、キノコがたくさん顔を出している。面白い形のキノコを見ていたら、友人が指差す。「あ、蛇」、彼女は目がいい。小さな蛇は慌てて斜面を登っていく。マムシだ、久々にマムシを見たのでシャッターを押したが、慌てたのでちょっとブレてしまった。
地図を見ながらまずは中央の道を行ってみよう。散策路の淵には濃い緑の葉と純白の花が対照的なヤブミョウガが満開だ。ところどころに小さな濃い青色の実もついている。シロバナサクラタデやアキノタムラソウ、ミズタマソウなど、長野でも見られる花もたくさん咲いている。ガンクビソウも黄色い花が可愛い。
湿地に入るあたりはススキが茂っている。そしてその足元に、ナンバンギセルが咲いている。色が濃くて華やかだ。葉緑素を持たない寄生植物とは思えない。ほぼ終わって萎んできたものもあれば、これから咲く蕾もある。しばらく二人でナンバンギセルにご挨拶。
さらに進むと、登り道になる。巨木もあり、暑い日差しは遮られている。風が吹けば言うことなし。
二人で目を皿のようにして道の脇を見ながら歩くが、見たい小さな花は見つけられない。だが、斜面にスッと立つギンランの実に似た小さな実を見つけた。これは何かしらと首を傾げながら写真を撮る。あとで調べてみましょう。小さなランの仲間の実に見えるけれど・・・。
家に帰ってインターネットを検索していたら、なんと同じ場面を撮った写真が、この地域の花に詳しい人のブログに載っていた。二つの花の違いはなかなか分からないのだけれど、ここは地元の花に詳しい人を信用しましょう。マヤランとサガミランの実だそうだ。花には会えなかったけれど、春咲きの花の実をカメラに收めることができただけでもよしとしよう。
というのは後の話で、この時は何の実かなと話しながら稜線を歩いていた。キノコを楽しみながら道を下って、田畑が設えられているところに出る。雨の後の道は滑りやすく要注意だ。木の根が細かく張っていて足の置き場がないところを注意しながら降りていく。
足元に気をつけながら御所川まで降りる。川沿いにジュズダマがたくさん揺れている。田の畔に女性が二人話しながらメモをとっている。近づいて挨拶すると、二人はこの地域の花に詳しいようだ。私たちが見たいと思っている花については今期まだ見ていないので「今ここに」と言えないそうだが、代わりにタコノアシを教えてもらった。世界に1属2種といわれる植物で他に同じような植物がないそうだ。河川域や湿地などに生息するが、他の植物に追われて生息域が狭まっている。蛸の足のように花穂が分かれて、先端が丸まっている。しかも小さな花は吸盤のようについているのが面白い。
小さな花々を見ながらもう一度稜線に登っていく。小竹ヶ谷を通って、富士が見えるという高みに登る。丹沢の裾野あたりは見えているが、富士の山頂は雲に隠れている。笹のトンネルを通り、七里ヶ浜入口に向かう。とうとう、今日は目指す花を見ることができなかった。
だが、太平洋を見下ろしながら江ノ電の駅に向かって降りて行く私たちはなんだか満足感に包まれていた。
江ノ電に揺られて鎌倉近くの美味しいおにぎり屋さんでお昼を食べてから、私たちは別れた。もちろん近い再会を約して。