ユウスゲの花は名前の通り、夕方に咲き出し、朝には萎んでしまう一日花だ。咲き始める頃に会いに行くのが素敵だとは思うが、夜動くのが苦手な私たちには難しい。前日開いた花が萎んでしまう前に会いに行こう。
飯綱高原一の鳥居苑地の駐車場は空いていた。休日は車が溢れそうになっているが、雨の後の今日は飯縄山に登る人が少ないのだろう。朝露か、夜雨の名残りか、しっとり湿った草原をゆっくり登っていく。
スマートに立ち上がったユウスゲの花はまだ開いている。レモンイエローの優しい色が露を含んで半透明、溶けちゃいそうだ。広い緑の中に点々と咲き残っている。たくさんの蕾はまた夕方開くのだろう。
森の中にはヒョウタンボクの赤い実が宝石のように光っている。草原にはギボウシの花が盛りだ。コバギボウシは紫が濃く目を引かれるが、とても小さい。オオバギボウシは緑の草の上に花穂を伸ばして目立つ。キキョウもオミナエシも秋の花ではないのか、もう満開だ。高原には早くも秋の風が吹くのだろうか。花を見ながら歩いていると、蝉の抜け殻がたくさんある。中には羽化の途中で力尽きたのか、そのまま固まってしまったのもいる。これも自然の姿なのだろう。一回りして、車に戻る。
さて、今日は久しぶりに戸隠森林植物園に行ってみようと話していた。だが、走り出すと雲が晴れ、真っ青な空が光ってきた。展望苑からの山が綺麗に見えるのではないかと、寄り道をする。期待通り、戸隠展望苑は遠くまで白く、ソバの花が満開だ。そしてその向こうに戸隠山が累々と聳えている。高妻山の三角が青い空に映えて美しい。今年は雨が多く、雲に覆われた空を多く見てきたから、真っ青な空が一段と眩しく感じられる。しばらく広いソバ畑と青い山を眺めてから車に戻る。
宝光社、中社を通り過ぎて森林植物園の駐車場に車を停める。森林植物園は緑一色だ。いつもの募金箱にコインを落とす。コイン一個じゃなかなか足しにはならないだろうが、早く木道ができるといいなぁという気持ち。今日は静かなみどりが池を見ながら、小休憩。池の淵にはドクゼリが名前に似合わない白い小玉のような花を揺らせている。お煎餅をかじって塩分補給、水分補給だ。
ウバユリがすでに終わりかけている。花が咲く頃には葉がないのが名の由来というが、茶色くなった葉がついている。夫はウバユリを見ると私と一緒に写真を撮りたがる。「ウバユリと姥」と、にやり。でも森の中にはもっとそっくりさんがいる。一面に咲いていたズダヤクシュは実になり、変わって群生しているミゾソバがピンクの花を開いている。ミゾソバにそっくりなタニソバも見つけた。花の下に腺毛が光って見える。
高台に咲く花たちを眺めてから湿原に降りていく。森は緑一色。背の高い花が一面の草の海から飛び出しているが、メタカラコウはもう最後の黄色い花びらがわずか、シキンカラマツやバイケイソウも今年はもう店じまいの支度中だ。足元にはノブキの白い花が光っている。タニタデの小さな花がちょうど陽を受けてキラキラ光っている。とても小さいがなんとも見事な造形だ。うっかり見過ごしそうな小さな花だけれど、妖精が跳ねているような花、毛玉が遊んでいるような実、どこをとっても可愛い姿だ。ヌスビトハギという、何とも可哀想な名前の小さな花が、これもまた目を引く美しさだ。
小さな花に目を奪われながら歩いているが、ちょっと目を上げれば木の実が色づいてきて、陽をうけて光っている。やはり秋が近づいていることを感じさせられる。
粘菌も隠れていたし、キノコも色々見つけた。中でも一番びっくりしたのは巨大なハナビラタケ、一抱えもある。これは森の女王だね。
ほとんど人がいない木道を歩いていると、とても気持ちが良い。街は暑いけれど、森の中は涼しい風が流れている。森林浴とか森林セラピーという言葉の意味ははっきりわからなくても、こうして森の中を歩いて元気をもらえるのだからそれで十分だろう。
緑の中にはたくさんの花の蕾が隠れていて、これからまた賑やかになることを予感させる。真冬に歩いたことはないが、雪の残る道を辿ってみたことはある。四季を通して楽しめるところだ。これから賑やかに咲きだすだろう、秋の花々にもまた会いに来よう。