長く続いた梅雨が明けた。珍しい晴れマークの天気予報を見て出発。家から1時間、山道を走り、斑尾高原を越えて沼の原湿原に向かう。車窓から見える山々はまだ薄い雲に覆われている。だが、駐車場に到着、靴を履き替えていると青空が広がってきた。
この季節の沼の原湿原は初めてだ。昨年から楽しみにしていた、ミズチドリに会えるだろうか。小さな川を越えると、雨が多かったことを物語るように道はぐちょぐちょだ。湿原に入る木道の木が水に浮いている。乗ると、大きな木道の木が水に沈み込んで、靴が濡れる。幸い水に浮くところは短くて、すぐ安定した木道になった。そして、純白のミズチドリが目に飛び込んできた。丈高くなったアシの間にちらほらと白く光っている。
遠く見渡すと一面の緑の原だが、その中には純白のミズチドリ、薄紫のコバギボウシ、濃い黄色のメタカラコウ、鮮やかなコオニユリと、様々な花が散らばっている。小さなボンボンを揺らすようなドクゼリの広がりもところどころに見えている。足元にはとても小さなオトギリソウやミゾソバの花も見え隠れしている。
私たちは広々とした湿原の風を心地よく受けながら木道を進んでいく。見える限り湿原には誰もいない。ミズチドリの白さに感動しながら私はいつもの如く「わぁ〜」とか「綺麗」とか声を出しながら歩いていく。ふと足元を見るとカキランがいくつもの花を咲かせている。「こんなにカキランが!」と言いながら、アシの奥を見ると、群落になって広がっている。見える範囲で数えてみたら40株くらいはあったが、さらに奥は見えない。これだけあれば来年も咲いてくれるねと、なんだかホッとしながら先へ進んだ。カキランはここだけではなく周辺にも小群落が何ヶ所かあった。
湿原を進んで、少し高台になっているところで小休憩。崩れかけた木のベンチに座って湿原を見渡しながら持ってきた煎餅を齧る。向こうには先日登った毛無山が見えている。
しばらく休憩してから湿原に降りて、さらに奥に向かう。オオウバユリはまだ蕾だが、マムシグサの仲間は緑の実を膨らませ始めている。背の高いシシウドは今にも開きそうに蕾を膨らませている。奥に進んだら、一つだけ白い花火のような花を開き始めていた。湿原はこれからまた賑やかになるのだろう。ところどころ、お化けになった大きな水芭蕉の葉の根元が掘られている。これはもしかして熊が掘ったのだろうか。水芭蕉は熊の好物と聞く。水芭蕉の葉の茂みの向こうにオカトラノオの群落があり、ヒョウモンチョウがたくさん舞っている。
雪椿の間の山道を少しだけ登ると万坂峠への分岐に突き当たる。私たちは湿原の端に続く道をとって戻る。しばらく歩くと、つる植物が大きな葉を広げている。小さな緑色の花が多いので、つる植物の名前はなかなかわからない。近寄って花と葉をよく見る。これはキクバドコロか。少し歩くと今度はちょっと違う葉が広がっている。花も違う形だ。すでに実が膨らみ始めているのもある、これは・・・カエデドコロ。そしてシオデの花も沢山見える。ここはつる植物の勉強会ができるねと喜んでいる私を横目で見ながら夫は苦笑い。
足元にはニガイグチに似た大きなキノコがポコポコ出ている。
しばらく山道を歩いて、再び湿原に降りる。ミズチドリやメタカラコウ、ドクゼリの花が目を楽しませてくれる中を歩いていくととっても小さな白い花が散らばったように咲いている。モウセンゴケだ。しゃがんで花の足元を見るが葉が見つからない。近づいてじっくり見ると、いろいろな草の影にとても小さな葉が隠れていた。
一回りしてきたので、そろそろ帰ろうかと中央のせせらぎに沿った道をいく。水の流れはいつもよりはるかに多く、急流だ。だが、心配していたせせらぎの脇の道は木道が新しくなっていて、安心して進む。途中ヘラオモダカの写真を撮ったあたりまでは大丈夫だった。急に木道がなくなり、道は冠水している。少しの距離だからと進むと、結構潜る。びちょびちょに濡れながら、もう諦めの境地。
大きくなった水芭蕉の葉の大群落の中を進み、いつもより川幅が倍になったような沢の綺麗な流れを楽しみながら車に戻る。正午を少し回ったところだったが、駐車場の車はみんな去り、我が家の車だけが残っていた。 途中「まだらおの湯」で遅いお昼を食べてから家に向かった。