久しぶりに古池に向かった。県道37号線をまっすぐ北上し、仁之倉を左折して黒姫山の懐を走る。古池、種池へ登っていく登山口には数台車が停められる駐車場があるが、車がいっぱいで道路にはみ出している。少し先の鳥居川を渡る手前の駐車場に車を停める。ここもいっぱいで、かろうじて1台分のスペースを見つけた。端の方に車を止めて靴を履き換えていたら、3人の男性がやってきて、大きな車を出そうとしている。「どこへ行ってきたのですか」と聞いたら、種池の水を汲んできたそうだ。「仕事なんですよ」と笑顔。帰って水質を調べると言う。どんなことを調べるのか聞かなかったのが残念だ。
空いた場所に車を移動して、私たちも種池目指して歩き始める。車道を少し行って、黒姫山登山コースに入る。気持ち良い森の中は爽やかだが、雨が続いたからか、道は少しぬかるんでいる。最初からちょっと急な登りになるが、やがて深い笹原の中を行くようになると道は緩やかになる。
種池への分岐には説明板が立っている。それによると、種池には湧出と流出口がないのだそうだ。不思議な池だが、いつもカエルの声がとても賑やかで、大きな鷺の姿を見る。今日も向こうの淵をアオサギが飛んでいた。
しばらくカエルの合唱を聞いてから道に戻り、古池を目指す。密生した笹原の中に続く道の脇にはズダヤクシュやミツバツチグリ、ノミノフスマなどの花が咲いている。
しばらく歩くと、ムラサキサギゴケが一面に広がっているところに出た。水の流れも多いのか、サンリンソウが咲いている。ネコノメソウも群生している。花は終わって猫の目のような実になっている。
傾斜が強くなってくると古池のほとりに飛び出す。だが、残念ながら、池の向こうに聳える黒姫山の姿はない。今日は雲の中に隠れている。小さな発電施設からは水が勢いよく流れているが、見ていると震えそうだ。ここは風が強い。満開のツリバナがわっさわっさと揺れている。森の中に入り込むと風が遮られ、おりしも雲の切れ目から日もさして、暖かくなった。
湿原は水芭蕉の葉がお化けになっていた。リュウキンカの残り花が黄色く広がっている。あちらこちらに咲き出したレンゲツツジの明るいオレンジ色が点描のように置かれている。湿原の奥に続く道を少し歩いて見た。大きな木が見渡す限り奥まで続き、勢いのある流れがいく筋か走っている。
風が遮られた気持ち良い森の中の空間でおにぎりを食べよう。足元にはすでに花の終わりのクリンユキフデ、ニシキゴロモ。流れの淵には咲き始めたヤマオダマキ、マムシグサの仲間。そして茶色く積もった落ち葉の下から白く透明なギンリョウソウがたくさん顔を出してきた。花々を見ながらひと時の安らぎ。木々の奥にコケイランも咲き出している。
のんびり森の中のひと時を楽しんで、今度は古池を一回りしよう。水辺にはサンリンソウが盛りだったが、池の淵にはニリンソウも見える。すでに終わりに近いニリンソウは背丈が伸びてサンリンソウによく似ている。「お勉強です、どこが違うでしょう」などとふざけながら、池のほとりの木道に向かう。ベニバナイチヤクソウが綺麗に咲いている。ノビネチドリの花も見える。相変わらず黒姫山は雲の中だが、遠く裾野に古池湿原が広がる様子はのびやかで気持ち良い。ミツガシワの葉がたくさん見えている。湿原の淵になると、黒姫山への登山道が森の中へ続いている。サワフタギの花が白い糸を集めたように光っている。
登山道を左に分けて池の淵を歩く。ツクバネソウもギンランもとても小さいのに花が咲いている。タニギキョウの花もまだ咲き残っている。一つ一つ花に挨拶しながら歩いていくと、ウスバサイシンがたくさん見えてきた。花の中には実が膨らみ始めている。足の踏み場がないくらいたくさん小さな葉を出している。
池の端の水たまりをのぞく。もう少し早ければクロサンショウウオの卵が沈んでいるのだが、今は見えない。みんな孵化して森の中に散っていったのだろう。
エンレイソウが大きな葉の真ん中に一つずつ実を膨らませている。まだ緑だが、だんだん黒くなってくる。エンレイソウには毒があるというが、熟した実は食べられるとも聞く。完熟すると毒はなくなるそうだ。
古池を一回りして登山口に戻った。色々な花に会え、森の空気と鳥の鳴き声に包まれ、豊かな一日だった。一つだけ残念だったのは黒姫山に最後まで会えなかったことか。