市街地に近く、中腹には子どもたちが遊べる遊具を備えた公園もあり、愛護会の人たちがトレイルを整備してくれている地附山は、ちょっと時間ができた時に行ける、親しみを感じる里山だ。山頂にはロープウェイ、スキー場などの古い施設の跡が残り、前方後円墳、六号古墳もあり、桝形城跡まで足を伸ばせば山城の跡に立つことができる。大峰山との鞍部から謙信物見岩に降りれば歴史を感じるだけでなく、巨大な岩のスリルも味わえる。
そしてこの山には思ったよりたくさんの花が咲く。花を追いかけて登っていると、毎日のように登りたくなる。実際毎日登っているヤマさんが、笑いながら「年間360日くらい登っているけれど、飽きないよ」と言っていた。
あっちの山もこっちの山もと欲張りな私たちは、地附山には時々登るということになる。そして日を置いて登っては「あ〜もう(花が)終わっちゃった」と嘆くことが多い。特に今年は季節の進みが早い気がする。桜の開花が伝えられると、あっという間に満開になってしまう。三分咲き、五分咲き、七分咲きなどと優雅に楽しむ間などありはしない。他の花々も推して知るべし・・・だ。
さて、嘆いていても仕方がない。5月に見てきた花を思い出してみよう。何回か登っていれば、芽吹いたところから、花開き、実を膨らませ始めるところまで見守ることもできる。5月の山は春の花々が満開になり、初夏の花に場所を譲り始める頃だ。
サクラ、ガマズミ、ウグイスカグラなど、木々は実を膨らませ始める。キブシやウリカエデなどもそれぞれの形に実ってくる。代わりにツクバネウツギ、タニウツギ、ヤマツツジの花が森を賑やかにする。ニセアカシアは最近増えて、白い花は見上げれば綺麗だけれど、我が物顔に森に広がってきた。5月前半には青空に白く広がっていたニセアカシアも、後半になると散った花が道を白く染めるようになる。
少しずつ森と親しくなって、昨年は見られなかった山葡萄の花にも会える。同じ山に何度も出かける楽しみはこんなところにあるのかもしれない。タニウツギの花は濃いピンクが綺麗だと思っていたが、白い花を咲かせる木もあるようだ。今までゆっくり眺めることもせず、あの白い花はなんだろうと思っていた木が、立ち止まって見つめるとその形、残っている実、広がる葉、どれをとってもタニウツギの花と同じことに気づく。違うのは花の色だけ。シロバナタニウツギと言うらしい。
中腹の公園にあるミニ山野草園には、西澤さんが丹精込めた花が毎年咲いている。珍しい花もあり、控えめなラン科の花もあり、楽しみだ。
地附山には思いがけない花が咲いていて、この山に咲く花の種類はかなり多いと思うが、以前動物園などのある公園として整備されていた名残でもあるのだろうか。ただ、たくさんの種類の花がそれぞれの狭い場所にわずかずつ咲いているものが多い。広くどこまでも咲き広がっている花は案外少ない。花を求めて歩いているとあのコースもこのコースも、あっちの藪もこっちの藪もと、行ったり来たりすることになる。里山歩きはそれが楽しみと言えるかもしれない。
5月のうちにもう一度登って、膨らみ始めていたサイハイランの蕾が開いた姿を見たかったが、用がない日は雨に降られ、まだ実現していない。6月になってもきっと咲いていてくれるだろうと楽しみにしている。
赤く光っていたオニグルミの花は子房が膨らんできたし、キブシの実もまん丸くなってきた。ダンコウバイ、ミヤマウグイスカグラなど春一番に咲く花も、稔りの速さはそれぞれだから面白い。桜の実が赤くなってきた、もっと黒みが強くなってくると、山登りの楽しみになる。地附山には桜の木が多いので、汗をかきながらポツリと口に入れる。酸っぱくて滋味豊かな一粒がとても嬉しい。今年は山葡萄も味わえるだろうか。
ゆっくり歩いていくと道端の緑が揺れている。足を止めなければ花が咲いていると分からないくらいの小さな花も多い。自然の懐は深いと思う。そしていつもオープンだけれど、そこには未知の世界が広がっている。