遠い伊那地方を走り、二つの公園で花巡りをして山梨の友人の家に泊まった。爽やかな高原の空気の中で1日楽しんできたが、夜になって雨になった。
翌日はどうしようかと幾つものお楽しみプランを考えていたが、雨の中の散策はしたくないと意見は一致。朝は霧雨、時間が経つにつれ雨雲は薄くなる様子。まだ行ったことがない身延山が話題になり、では行ってこようかと、身が軽いたのちゃんが誘ってくれる。
ゆっくり朝ごはんを食べて出発、中央高速道路から新しい中部横断自動車道に入り、身延山インターチェンジで降りる。JR身延線の脇を通り、身延駅を見る。鉄道好きな夫は喜んでいる。中部横断自動車道でずっと隣を走ってきた富士川を渡り、山道を登っていく。
途中青空が広がったので喜んでいたのだが、身延の谷には雲がかかりポツリポツリと雨粒のようなものも落ちている。 日蓮宗総本山の身延山久遠寺の三門で、車を降りる。三門は「空」「無相」「無願」の3解脱を表すそうだ。何度か来たことがある友人たちはさらに奥の駐車場に車を停め、斜行エレベーターというので上がると言う。三門から本堂まで一気に上がる菩提梯と呼ぶ石段は、かなり急らしい。「頑張ってね」と言いながら友人たちは去っていった。
確かに驚くほど急だ。しかも一段一段の段差が大きい。おりしも霧雨が当たってきた。借りた傘をさして、はるか上を見上げながら登り始める。
中学生らしい男の子が二人、元気に登っていく。その後ろから夫と私はゆっくり登る。大きな段差、急な角度、287段の長い階段ではあるが、手すりもついていて、一歩一歩登れば大丈夫。見上げたり見下ろしたりしながら行く。途中に何回か、足休めになる踊り場がある。南無妙法蓮華経の7字になぞらえて7区画に分けられているからだ。ちょうど真ん中あたりには女坂と交差するところもあった。幸い登り始めるとじきに雨は止んだ。
階段の両斜面には緑濃いシャガの葉が広がっている。花は終わって、実になりつつある穂がツンツン立っている。三分の二くらい登ったところで上に友人の顔が見えた。「あとちょっと、がんばれ」などと笑っている。
しかし最後はやっぱりきつかった。どっこいしょと言いながらようやく本堂前に到着。五重塔が目の前に聳え、右には鐘楼がある。目の前の大きな本堂から廊下でつながった建物が何棟も続いているようだ。
本堂にお参りしてこよう。天井に竜の絵が大きい。廊下を渡って進んでみる。金色の立派な仏具が宗教の力を感じさせる。いつの時代も、世界のどんな宗教も、大きくて豪華な寺(神社、教会、モスクなど)を作るのだなぁなどと思ってしまう。
ロープウェイで奥の院まで上がることができるそうだが、雨模様、見上げる山頂は真っ白い雲の中、今日はやめようということになった。晴れていれば南アルプスの展望などが楽しめるそうだ。「今度は晴れた日に来ようね」。
頑張って登ってきた石段だが、帰りは友人たちと一緒に斜行エレベーターで下ることにした。売店で、みのぶ饅頭を購入し、ホクホク顔でエレベーターに乗る。駐車場との間を、斜めに昇降する珍しいエレベーターだ。
さて、車に乗り、後は一気に帰りましょうかと話しながら出発。山道を降りたところで、ちょっと下道を走ってみようかと運転手は富士川のほとりを遡る。しばらく走ると山の中へ、そこは信玄の隠し湯と言われる下部温泉郷。身延線の駅に電車を待つ人の姿が見えるよと車を停める。鉄ちゃんの夫はカメラを持っていそいそ。
電車の写真を撮って、温泉郷を少し奥の方まで走ってみる。下部温泉は沢沿いに奥深く、昔の旅人はたどり着くのに大変だっただろう。隠し湯と言うだけあると感じた。
さて、帰ろうか。私たちは友人の家へ帰る途中の小淵沢駅でおろしてもらう。お昼にはちょっと遅い時間だが、駅弁を食べながら行こうか。夫が以前どこかで見たという高原弁当と、最近ハマっている卵サンドを購入。弁当を広げ、窓外の景色を楽しみながら家路をたどる。中央線の特急あずさは松本止まり。私たちは特急しなのに乗り換え。姨捨の景色が見えてくると家は近い。