寄生植物や腐生植物に心惹かれるのは何故だろう。植物といえば葉緑体を持ち、光合成をして栄養を作り出す生き物だという思い込みがある。ところが葉緑体を持たず、光合成をしない寄生(全寄生、半寄生)植物がある。菌根菌と共生して作った無機栄養類を他の植物に供給し、光合成によって作られた有機物をもらっている腐生植物もある。
こんな奇妙なのは滅多にいないのかと思っていたが、4000種もあるそうだ。寄生植物の中にも全寄生のもの、半寄生のものなどがあるという。世界一大きな花として有名なラフレシアも全寄生植物らしい。
なぜか心惹かれる寄生植物のひとつヤマウツボを探しに出かけた。数年前に初めて出会ったが、会いに行くのをちょっと躊躇っている。森林の伐採が進み、希少植物の仲間入りをしているそうだから、自生地を荒らしたくないと思う。たまたま見つけたところには10株ほどの花が咲いていたが、もっとたくさん咲く場所があるらしい。昨年は自生するヤマウツボの周辺をかなり広く探したが、他には見つけられなかった。今年はもう一つの場所を探しに行くことにした。
寄生植物には宿主がいるわけだから、ちゃんとその宿主を見極めながら探せば見つけられるのだろうが、森は広いのでなかなか難しい。同じ葉緑素を持たない寄生植物のナンバンギセルを見たくても、宿主のススキのあるところを全て見て歩くのは相当に困難な仕事だ。寄生植物、腐生植物は宿主がなければ生きられないが、逆はないからだ。
午前中用があったので、午後から出かけてきた。青空が広がり、遠くの山も見えている。「こんな日は森の中で地面を見て歩くより、山に行って見晴らしを楽しむ方がいいのにね」と話しながら飯綱山麓に向かう。言葉と気持ちは裏腹だ。二人とも地面を見ながらゆっくり歩こうと気持ちは決まっている。
今年は見に行けないかなと思っていたので、時期が遅い。ヒトリシズカがすでに実になっている。残念、白い花を4枚の葉で包むように地面から顔を出す姿が大好きなのだけれど、葉が大きく広がって、「これ、フタリシズカじゃないの」と夫が言う。ヒトリシズカの葉が広がってきたところと、フタリシズカが蕾を伸ばすところは確かに似ている。そんな私たちの足元を小さなカエルがぴょんぴょん飛んでいる。
そっと歩く道々、オオケタネツケバナの白、ミツバツチグリの黄色、カキドオシの紫が続く。オククルマムグラはまだ蕾だったが、一ヶ所だけ咲いているのを見つけた。
つい、地面を見てしまうが、目を上げればキブシの実が膨らみながらぶら下がっている。
さて、目的のヤマウツボ、目の前にど〜んと立っていた。あっちにもこっちにも。ただ残念ながらちょっと遅かったので、花弁らしい紫の花はほとんど散っていた。足の踏み場がない。出始めではないので、まだ出たばかりの小さいのを踏んでしまう危険は少ないけれど、とても小さい個体もあるし、花が散ってしまって白っぽく枯れて落ち葉に隠れているのもあるので、やはり自生地に踏み込むのは難しい。できるだけ端の方を回って撮影した。夫がカメラを構えてじっくり写している間に大きく回り込んで木の影などに咲いているものも数えてみたが、132株数えられた。
嬉しい。元気に毎年咲いてほしい。
地面からいきなり花を咲かせる姿は、まるで大地の花みたいだ。柔らかそうな花茎の周りに横に突き出すようにたくさんの花を伸ばしている。水芭蕉と同じように、一本の花穂に雌性期と雄性期があるらしい。上の方にわずかに残っている唇弁の先から花柱らしいものが飛び出しているのが見える。ほとんどの花は花弁を落としているので、雄性期もそろそろ終わりかというところなのだろう。
目的が達成できたので、足取りも気分も軽くなる。水辺を回ってから帰ることにした。水の近くにはニリンソウが、森の斜面にラショウモンカズラが咲いている。ミツバウツギが白い花をぶら下げている。だが、たくさんの白い花はみんなしっかり蕾んでいるようだ。ミツバウツギの花は全開しないのだそうだが、「それにしてももうちょっと開いてもいいんじゃないの」などと話しかけながら枝々の先をじっくり見るが、開いているのはない。
森の中を一巡りして、花々に「またね」と言いながら帰ることにした。