今日はこどもの日。連日青空が広がって行楽日和のゴールデンウィークだ。だが、すぐ近くに善光寺がある我が家にとってはあまり有り難くない数日になる。バスは来ない、道は混む。こういう日は山に入るのがいいだろう。今年見そびれていたイカリソウを見に行こう。そして足を伸ばして、なかなか見つけられない大好きな花を探しに行ってみようか。
8時前、ハイキングシューズを履いて出かける。まずは大峰山へ向かおう。登り始めの斜面には一面にイカリソウの葉、そして小さな実がたくさんぶら下がっている。やっぱり遅かったか・・・。
気を取り直して進むとシャガの花が慰めてくれるように揺れている。先日登った時はまだほとんど蕾だったコバノガマズミが満開だ。ツクバネウツギもちらほら花を開いてきた。青空が広がるのは気持ち良いが、気温がどんどん上がっているようだ。汗が吹き出してくる。
ゆっくり歩いていこう。急ぐ旅ではない。さて、今日二つ目の楽しみはヒメハギ。咲いている。とっても小さな葉と、濃い紫の花。この花の形はまさに自然の芸術、薄紫のふわふわした毛のようなものがかわいい。一番下の花弁にくっついているこの先端が糸条の付属体は虫を呼ぶ役割なのかな。とても小さいので、見落としてしまいそうな花だけれど、その色といい、形といい、素晴らしい。
ヒメハギに出会えたので、満足しながら大峰山に向かう。数日の好天気のおかげか、山はパリパリに乾燥している。登っていくと、今日三番目の宿題、ミツバツツジの仲間に出会う。毎年ちょうど良い時に出会わないから、なかなか特定できない。葉が3枚開いてきたのでミツバツツジの仲間ということは分かった。花がかなり終わりになってしまったので難しいが、雄シベが多いのでサイコクミツバツツジではないかと思われる。
ハナイカダは雌花が膨らんできた。フタリシズカ、アマドコロはまだ蕾だが、チゴユリはたくさん花開いている。満開のチゴユリの中を登っていく。
森の中に赤い点を見つけたのは夫、イワカガミだ。ちょっと萎れかけた花を見ていると上から降りてきた男性が、足を止める。とても花に詳しい人だ。裏山を歩いていて時々出会う。花の情報を交換しながらしばしの立ち話。
大峰山山頂はヤマブキやウワミズザクラが満開だ。イカリソウもまだ花を開いている。ラショウモンカズラは少し開いてきたところか。ところどころに青い星を散らばせたように、フデリンドウが開いている。綺麗なブルーを見ると何故か深呼吸をしたような心地よさを感じる。空の青、海の青、命の根っこに繋がる何かがあるのだろうか。
さて、先へ進もう。一気に降ると戸隠に続く七曲りの道に出る。連休だけあって車の流れが絶えない。途切れた隙を見て、渡り、葛山への道に入る。急な沢の上の道は大木の上部を見ながら歩くことができるから面白い。今日はオニグルミの花盛りだ。長く垂れた雄花と、ツンと立った小さな真っ赤な雌花が対照的。いつもは見あげなければ見えない花が、すぐそこに見える。
りんご畑が広がる道を折れて、葛山への登山道に入る。二手に分かれる道を私は右に、夫は左に進む。どちらも何回か歩いたところ、花を探しながら行ってみよう。右の道にはヒトリシズカが葉を開いてきた。ムラサキケマンもそろそろ終わりのようだ。杉林の中にシダが緑の絨毯を広げている。一回降りて登ると、出会いだ。稜線の道をやってきた夫と合流。二人で満開のワスレナグサを見てから葛山へ向かう。
ヤマツツジがオレンジ色に広がってきた。山頂には濃い紫のノジスミレが咲いている。気温が上がるにつれ、遠くの空は少しだけ霞んできたようだ。ちょうどお昼だ。ここでおにぎりを食べよう。葛山山頂の満開のツツジにキアゲハが飛んでくる。黒いアゲハも何頭か飛んでいる、小さい蝶も舞っている。「葛山の山頂には蝶が多いね」と夫が呟く。
爽やかな風が吹く山頂は広々としていて気持ち良い。のんびり風景を楽しんでいる間に何人かのハイカーが通り過ぎていく。道々、コース案内のようなリボンが風に靡いていたが、最近多くなってきたトレイルランニングのコースにもなっているのか、ランニングスタイルの人も多い。連休は、山の中にもちょっぴり人が増えているようだ。
さて、お腹もいっぱいになったし頼朝山との間の沢らしきところを尋ねてみよう。水辺が好きな花が見つかるだろうか。
葛山は木々が伐採されたり、笹が刈られたりして、北側登山道は全体的に広々した感じがする。山頂から降りる急坂も笹が刈られたが、滑りやすい細い道がむき出しになってなんだか怖い感じだ。カラマツの落ち葉が積もった道を一気に降る。
静松寺への分岐を折れてどんどん降っていく。葛山は山城だったというが、侍たちはこんな急な道を重い物を身につけたり持ったりして上り下りしていたのか・・・と、感慨深い。
静松寺が近くなったところで沢に降りてみる。杉林はちょっと暗い。カキドオシがたくさん咲いているが、降りていくとシダばかりになって道が消える。オシダだろうか、丸く輪を作ったようになって伸びている。しばらく沢を上へ、下へ、シダをかき分けて歩いてみるが、花の姿はない。ガッカリしながら引き返して稜線へ。
頼朝山と葛山の山中に咲くという花を探して何回か歩いているが、まだまだ里山歩きの免許皆伝には遠いらしく、見つけることができない。また来年までお預けだろうか。
帰りは観音山を越えて行こうか、頼朝山に登ってから降りようか迷うところだ。葛山を巻く中腹の長い道と、頼朝山を降りてからの街の中の道を比べれば、もちろん山中の道がいいのだが、冬を越えた観音山の道は荒れていそうだ。まだ今春、観音山から葛山への道を歩いていない。いつも倒木が折り重なって、かなり荒れている。
今日は疲れたから、歩き慣れた頼朝山から降ろう。頼朝山の山頂は午後の日を受けて暑い。強い日差しに全身が倦怠感に包まれる。頼朝山から見おろした長野市街地は、後で知ったのだが、この日32℃になったそうだ。幸い山の上は時折風が吹いて体感温度はそれほど暑くなかったが、体から水分が抜けていく感じではあった。
木陰に入れば涼しいので、ベンチに座って少し体を休める。ヤマツツジが斜面に赤く光っている。ゆっくり休んでから降る。歩き慣れた道はやはり足に優しい。下の沢に降りると、オドリコソウ、クサノオウ、ハルジオンが風に揺れ、足元には小さな赤い実を膨らませ始めたヘビイチゴが広がっている。沢に続く斜面にはホタルカズラのブルーも散らばって疲れを癒してくれるようだった。