朝、外気温が低い。外に出るとブルっと震える。今日は晴れるらしい。例年この頃から水芭蕉がにぎやかになる。長野の周辺には水芭蕉が咲くところが多いから、あっちこっちと群生を見に行きたくなる。山道を走っていれば、どこにでもと言いたくなるくらい水芭蕉が白く光っている。道から下の沢を見ると白く輝いているが、車で走るとあっという間に過ぎていく光景だから、これは助手席にいる私の楽しみだ。広く群生しているのを見るためには山の上の湿原に行かなくてはならない。
毎年のように出かけている「むれ水芭蕉園」の水芭蕉もそろそろ咲いているのではないだろうかと、行ってみることにした。目指す飯綱リゾートスキー場のゲレンデは茶色い肌を見せている。冬、飯縄山の山肌が白く染まり、ゲレンデが真っ白になっているとワクワクしたものだ。ゲレンデの下に水芭蕉園の駐車場がある。何台か車が停まっている。 私たちも車を降りて歩き出す。駐車場から見える森の中は緑色に染まっている。近づくと緑色の中に小さな白い花が散らばっている。ニリンソウだ。ニリンソウは水芭蕉の後に咲く花、ずいぶん早いね。
以前は、駐車場から一歩入ると水芭蕉の白が広がっていたものだが、近年群生の場所が奥へずれている。入り口のあたりはリュウキンカが大きく広がって、重なるようにニリンソウも群生している。水芭蕉はその間にポツリポツリと見えているが、すでに葉が大きくなって、白い花は葉の下に隠れるようだ。
「もうこんなに?」「今年は早いね」私たちはびっくりしながら先へ進む。水芭蕉の葉は大きくなると私の腰くらいまで伸びる。幅も広いのであの清楚な白いイメージとは大きく異なる。私たちは「オバケ水芭蕉」と、親しみも込めて呼んでいる。今日はまだオバケにはなっていないけれど、白い花が目立たなくなりつつある。
一面のリュウキンカとニリンソウの大群落が森の向こうまで続いている。しばらく歩くと、水芭蕉が増えてきた。水の流れが多いところは雪が溶けるのが遅かったのか、そのあたりの水芭蕉はちょっと花の白が目立っているが、おしべが伸びて花粉が見える。
流れの脇にはハコベ、ネコノメソウ、そしてオオケタネツケバナだろうか、小さな花が咲いている。名前の分からない薄紫のスミレも可愛い。エンレイソウは花の終わりだけれど、シロバナエンレイソウはまだ蕾だ。クルマバツクバネソウも硬い蕾をまっすぐ上に伸ばしている。森の中は順番に花が開いていくのだろう。
木の花も同じか、ナニワズの黄色もアブラチャンの黄色も萎れて精彩がない。フッキソウの花が白く咲き出している。山裾の沢には水に洗われるようにワサビの花も白く光っている。
一回りして、今度は下のニリンソウ園に行ってみよう。水芭蕉園には人が多いけれど、ニリンソウ園はあまり知られていないのか、いつも静かだ。奥の木のテーブルでおやつを食べながら一休み。鳥の声が降ってくるようだ。ウグイスとシジュウカラは分かるけれど・・・。
ニリンソウ園は緑一面の世界に白い花が揺れている。そしてここにもリュウキンカが広がっている。太陽の光を受けて輝くようだ。
気持ち良い森の中、花に囲まれて幸せな時間を楽しむ。奥に続く湿原の木道は傷んでいるからか、通行禁止の看板が立っている。惜しいなぁ、奥も広いのに。
さて、たっぷり花の世界を堪能したのでそろそろ引き返そうか。来る時に見つけた蕎麦屋さんで食べて帰ろうか。スキー場の建物の中に開店した蕎麦屋さん、十割蕎麦と書いてあったようだ。
11時開店という蕎麦屋「八方味人」に開店と同時に入る。「オヤマボクチ蕎麦」とある。オヤマボクチの葉からとった繊維をつなぎに使う蕎麦、北志賀の方で見かけたことがある。オヤマボクチの葉からつなぎを作る職人が減っているという。オヤマボクチ蕎麦の伝統を消したくないと、この道に入ったという店主はまだ若い女性。北志賀で修行したそうだ。
蕎麦は香りがしっかりしていて、こしがある。何もつけずに食べてみるとよく分かる。昔孫が小さい時にそばをつゆにつけずに食べていたけれど、うまい蕎麦はそのままで食べられると思う。
さて、花も蕎麦も堪能したので帰ろう。三登山、髻山の北山麓を回って丹霞郷近くの道を走る。丹霞郷は桃が見事で知られているが、途中の山道の脇にも桃畑が広がって、斜面がピンクに染まっていた。
白に黄色に桃色に・・・今日は花の色を堪能した。そして若葉の緑のそよぎも目に焼き付いている。花の季節の始まりだ。