新潟県小千谷市に城山(じょうやま)という地元の人々に愛される里山があることは聞いていた。小千谷に用ができて何回か行ったが、なかなか山に登ってくる時間を作ることはできなかった。
城山の登山口には湧水があり、多くの人が水を汲みにやってくる場所だという。何年か前に夫と行った時にはまだ雪が残る沢辺にコシノコバイモが咲いていた。近年は花の開花が早まっているからコシノコバイモには会えないかもしれない。
用がある夫に「行ってくるね〜」と声をかけて、朝7時前に家を出る。長野駅から北陸新幹線で上越妙高駅まで行って、えちごトキメキ鉄道に乗り換える。直江津からJR信越本線の快速に乗り換えて長岡駅まで。10時半、改札口に迎えに来てくれた弟と山に向かう。
最近城山に登ったと言う弟は、コシノコバイモはもう終わったかも・・・と呟く。登山口の馬場清水まで長岡駅からは結構ある。途中のコンビニでおにぎりを調達して、着いたのは11時半頃。9年前になるか、夫と一緒に来た時には雪がたくさん残っていたが、今日は何もない。やっぱりコシノコバイモの花は終わっていた。萎れた花びらの中に緑の種が見えている。残念だが季節には勝てない、気を取り直して歩き始める。沢にはコシノチャルメルソウがたくさん揺れている。慰めてくれているようだ。濃い紫のスミレや、鮮やかな黄色のサワオグルマも咲いている。
道は幅広く歩きやすい。道端に咲く花を一つ一つ見て行くと時間はいくらあっても足りない。「いつもはこんなにゆっくり歩かないでしょう」と聞くと、弟は「そうだね」と苦笑い。彼も花が好きだから、どこの山へ行っても季節の花を撮影しているようだが、私のようにいちいちしゃがみ込んで葉の裏を見たり、花の中を覗き込んだりはしないのだ。私はまるで昆虫だね。
下に小千谷の町が見える頃になると、トキワイカリソウ、オオバキスミレなどが一面に咲き出した。イワカガミもかなり開いている。オオバキスミレは長野の近くの山ではあまり見られないので、私は大喜び。弟は上に行けば一面に咲いているよと言う。それでも群生しているとつい足を止めて見てしまう。
スミレもタチツボスミレ、オオタチツボスミレ、そしてナガハシスミレが増えてきた。あまりに種類が多いので、スミレの名前はなかなか分からない。それで、分からないときはまとめて「すみれさん」と呼びたくなるのだが、実際に「スミレ」という名の種もあるからややこしい。城山には細長い葉で濃い紫の「スミレ」もたくさん咲いていた。 八合目あたりからは少し急になってきた。「雨が降ると滑るんだ」と、弟。今日は乾いているから気にならない。頑張って登ると山頂の広場に飛び出す。
小さな小屋があって鐘が置いてある。非常時用か熊よけか、小屋の脇にはこの地が山城の跡だという説明と縄張り図が架けてある。「時水(ときみず)城」と言うのは中世の戦国時代の山城らしいが、どういう人が作ったかなどの説明はない。
もう一段登ると、お地蔵様がポツリと立っている。ベンチも数台置いてあるので、この気持ち良い山頂でおにぎりを食べることにした。弟がコーヒーを淹れてくれたので、ちょっと豪華なお昼だ。
ぐるりと360度と言えるほどの展望が広がっているが、空気が湿っぽいのか、霞んでいる。近くの八石山は見えるが米山や越後三山、巻機山などはかすかに白く見えているだけだ。展望は薄いが、山頂一面に広がるオオバキスミレの黄色に見惚れながらゆっくり過ごす。
最後に一つ尾根の出っ張った冬城へ寄り道。日当たりの良い尾根の先端にはサイコクミツバツツジが華やかに咲き出していた。
一つ奥の丸山というところまで行ってみようかと話していたら、ポツリ水滴が落ちてきた。雨と言うのがためらわれるほどのポツリ、またポツリ。雨具はある。でもこの後用もあることだし、今日はここからゆっくり降ろう。
山を降りて、予定の用を済ませた後、長岡駅から帰りは新幹線を乗り換えて長野まで。上越新幹線「とき」がトンネルに入る前、越後三山が綺麗に見えていた。高崎で北陸新幹線に乗り換えて、あとは長野まで。乗り鉄旅の終点だ。