ずいぶん久しぶりに横須賀へ出かけることになった。3月末日に用があり、その用を済ませたら鎌倉アルプスを歩いてこようと、友人と約束して出かけた。天気予報は連日晴れ、暑いくらいとのこと、3月31日に新幹線と横須賀線に乗って横須賀へ向かった。横須賀駅に降り、駅前の横須賀港を見ながら歩いた。こっちはやっぱり暑いくらいだねと話しながら。
さて翌日の朝、気持ちは山へ。目覚めると窓ガラスに何か水滴が見える。あれっ、雨だよ。エイプリルフールじゃ無いよねと言いながら外を見ると降っている。
慌てて友人と相談、鎌倉の山はあきらめる。でもどこか歩きたい私たち、三浦半島の南の方はまだ降っていないようだからそっちへ行ってみようかと話す。雨具らしきものを持ってこなかった私たちのために傘も積んで、友人が車で駅まで迎えにきてくれた。
三浦半島の海岸線はどこも奇岩と砂浜の繰り返しで、歩いても、眺めても楽しいところだ。南部の歩いたところをざっと思い出しても、雨崎、剱崎、盗人狩、諸磯、油壺、小網代、三戸浜から黒崎の鼻を越えて荒崎へ、まだまだ切りがない。長井の海岸では潮干狩りもした。横須賀から三浦海岸まで、あるいは佐島から逗子鎌倉方面の海岸まであげれば観光地としても知られている海岸や島がまだまだたくさんある。
横須賀に住んでいる頃は毎年何度でも歩いた海岸線だが、神奈川の西部に引っ越してからほとんど行かなくなった。半島の先端の城ヶ島には、夫とウミウを見に行ったのが最後だ。20年以上前になるか、城ヶ島にも雪が積もっていた。
友人は懐かしいだろうと海岸線を走ってくれた。逗子から葉山へ。葉山から横須賀を通って三浦へ。今日の行き先は小網代の森にしようか、「ソレイユの丘」あたりから荒崎海岸を歩こうか、話しながら車は南へ向かう。歩けば楽しいところはたくさんあるけれど、一気に南の端まで行ってみようかと城ヶ島を目指すことにした。幸い雨は降っていない。南下するほどに空が明るくなってきた。
「ソレイユの丘」が開園したのは私たちが引っ越してからなので、孫たちが遊ぶ写真を見てイメージしていた。歩いたことがある丘だけれど、公園になってからは初めてだ。友人は少し周り道をして丘が見渡せるところを走ってくれた。広々とした丘の上、晴れていれば富士山も見えるかな。道の脇に広がるキャベツ畑では農家の人が大きなキャベツを収穫している。
目的地城ヶ島が近づいた。大橋を渡って一気に安房崎の駐車場に登り、車を停める。ここは県立城ヶ島公園の第1駐車場、車を降りて歩こう。散策路の脇にスイセンの葉が茂っている。花はすっかり終わってしまった。
三浦名物の大根をイメージしたという安房崎(あわさき)灯台の広場から対岸の半島の崖を見ながら海岸線に降りていく。子供達が小さい時にこの海岸で水遊びをしたものだ。びしょびしょに濡れた妹の服を竿に干して立つ兄の写真が雑誌に載ったことがある。写真が趣味だった私の、いくつか公になった写真の一枚だ。引っ越しを繰り返すうちに捨ててしまったようで、今ではフィルムも残っていないが・・・。
友人は海のことに詳しいので、一緒に歩きながら海藻や貝殻の観察をする。海岸に流れ着くワカメを送ってもらったこともあるが、城ヶ島には流れつかないようだ。
岩の間に溜まった水を覗き込むとさまざまな海藻が揺れている。貝も何種類かじっと岩に張り付いているが、名前がわからない。波に洗われて割れているけれど、貝殻は実に彩り豊かだ。
安房崎の海岸から岩場伝いに歩いていく。イソギクやツルナの葉が緑に岩場を飾っている。クコの木も小さな葉をつけてところどころに枝を伸ばしている。波に洗われた岩の肌はさまざまな模様を描いていて一様ではない。場所によって岩の成分が違うのか、波模様があったり、丸く削られたような崖があったり面白い。登ったり降りたり、海岸線も山道を歩くような面白さがある。
まだ花はあまり多くはないが、木々の花も開き始めている。アケビの花は3種類並んで咲き、サルトリイバラは半透明に光っている。小さな花を見つけるたびに歓声を上げる私たちはかなり賑やかだったかもしれない。春休みにしては訪れる人が少ない上に、私たちは波打ち際の険しい岩場を選んで歩いているから会う人も少ない。まぁ、ちょっと賑やかに声をあげても迷惑にはならないだろう。
一回丘の上に戻って今度は馬の背洞門に向かう。途中の赤羽根海岸に降りてウミウの越冬地を見よう。ウミウ、ヒメウ、アオサギなどの鳥たちが垂直の岸壁にじっとしているのを見ることができる。かつてはその鳥たちを観察するために何度も通ったところだ。だが、4月に入った今日は、既に多くの鳥が北へ旅立った後のようだ。それでもじっと見ていると、かなり近くで海から魚を咥えて素早く飛びたつ姿を見ることができる。咥えた魚が大きいのか、水面スレスレに飛びながら岩場に戻っていく。
なんだかえらいねぇと言いながらウミウの姿をしばらく眺める。砂浜から再び岩を登り、馬の背洞門に向かう。ここは人気スポットなので人の姿も見える。昔は細い岩の上を歩いて渡ったけれど、今は風雨に削られて岩が細くなったらしく、危険なので登れない。小さな子供も座ってずりずりと渡ったものだったが。あれからいったいどれほどの年数が経ったのだろう。
何人かの人が記念撮影をしていたので、私たちも記念にシャッターを押してもらった。洞門が開いている岩壁には、他にも小さな穴がいくつか開いている。そういうのを見つけると子供は入ってみたくなるものだろう、私と友人は我先にと岩を登り、穴に潜り込んで向こうの海を覗き込んでいた。夫は下から見上げて苦笑い。
たっぷり岩場で遊び、再び丘に戻る。笹竹の間に開かれた道を辿りながら歩くうちに城ヶ島大橋の下に降りてしまった。橋の袂には「雨はふるふる、城ヶ島の磯に〜」という有名な北原白秋の詩碑が立っているが、私たちは坂を登って公園の駐車場に向かう。丘の上には常緑樹の森があり、コショウの仲間のフウトウカズラが巻き付いている。昔、尊敬する先達の柴さん(コンサーベイショニスト柴田敏隆氏)が赤い実を指さして、「ここが北限ですよ」と話していた声が今でも聞こえてくるようだ。あれから温暖化が進んでしまったが・・・。
車に戻って走り始めたら、フロントガラスにぽつりと水滴が。歩いている間降らなくてよかったねと話しながら駅に向かう。道々友人が摘んでくれたアシタバをお土産に私たちは長野に向かった。今日の夕飯は三浦半島のアシタバ料理だ!