庭にいち早く咲くオオミスミソウ、長野に引っ越してきて出会った野草が趣味の男性からいただいた十数株の花。毎年新しい交配種を育て、さまざまな色や形の花を咲かせていると話してくれた。野山に花を見にいくのは大好きだが、山野草をあえて庭に育てようとは思わない。だが、毎年たくさん芽吹くので捨ててしまう鉢だと聞いて、いただいてきた。それから毎年我が家の庭に春がきたと教えてくれる。今年は遅く、まだ開いた花は少ないが、蕾がたくさんついている。
ミスミソウ属はオオミスミソウ、スハマソウなどがあり、なかなか区別がしにくいと聞く。「雪割草」の別名で知られ、その花を愛する人たちの会もあるそうだ。そして研究している人たちの分布図を参考にさせてもらうと、長野や新潟に咲くのはオオミスミソウらしい。これまではミスミソウかと思っていたこともあったが、花の径も大きいのがあるし(ミスミソウは1.5cm以内だそう)、研究している人の分布図を信じてオオミスミソウと記すことにした。
大峰山の山頂近くに咲くのを毎年楽しみにしているが、今年もようやく花を見せてくれた様子。午後から天気は下り坂というので、降らないうちに登って来よう。8時前に家を出た。薄く雲が被っているので、道端の花たちはまだ露を持って下を向いている。雲が薄いところから時々弱い日が差すとうっすらと自分の影が動く。
歌ヶ丘からのコースは妙に明るくなったと思ったら、たくさんの松が伐採されている。松くい虫に侵されてしまったのか、根っこに土をつけたまま倒れている大きな木もある。今年の2月3月に伐採されたものが多く、斜面には新しい山がいくつも見える。燻蒸用の白いシートに囲まれてそこに整備した月日が書いてある。かつては松茸がたくさん採れたそうだが、最近はどうなのだろう。松枯れ病の被害は大きい様子だ。この森に多い春蘭の株を見つけるたびに根元をのぞいてみるが、蕾が見つからない。まだ地面の下なのだろうか。頂上近くになって笹が見えてくると、鹿に食べられた痕がたくさん見られる。
山頂に上がり、オオミスミソウの自生地を見る。あれ、みんな俯いている。確かに花をつけている株がいくつも見えるけれど、ほとんど開いていいない。まだ9時を回ったところ、山頂の日陰は気温も低いし、光も薄い。もう少し暖かくなってくると咲くかなぁと話しながら三角点を見て、コシノカンアオイを見に行く。夏には草ぼうぼうになる広場でおやつタイムとする。木の間から真っ白な北アルプスが見えている。
大峰山山頂には市の設備なのか、天守閣を模した建物がある。かつては蝶の博物館だったそうだが、崩壊に向かって荒れたままなのが痛々しい。建物をしっかりすればこの上からの見晴らしは良いだろうねと話しながら見上げる。もちろん周囲の藪の手入れも必要になるけれど。
しばらく休んでからもう一度オオミスミソウを見にいくと、咲いている。日差しが強くなったせいか、気温が上がったせいか、俯いていた花たちが顔を上げ始めている。
森の中のあちらにもこちらにも。嬉しくてじっと見ている。山頂広場の緩斜面にも毎年咲くのだけれど、こちらは日陰になっているからかまだ花は見えず、日当たりの良い急斜面にたくさん咲き出している。
ゆっくり花を楽しんでから、地附山との鞍部に降る。日差しが出てきて青空も見えたせいか、何人もの人とすれ違った。みんな花を見に登ってきたようだ。私たちは途中から旧道に出て、のんびりと木の芽を見ながら歩く。キブシもカエデもサルナシも頭上にまだ芽の色が見えないが、ニワトコの芽はもう随分開いている。
暖かくなれば一気に緑が増えるだろう。足元のフキノトウもまだ開いていないけれど、今晩の蕗味噌用に摘んで歩く。地附山の山頂下あたりにいたら上から「ヤッホー」と声が降ってきた。毎日登るヤマさんだ。私たちも「ヤッホー」と返しながら山頂目指す。途中でスーさんにも会い、摘んできたフキノトウを見せ合いながら山頂へ行く。
淡いブルーの空に浮かぶような飯縄山が綺麗だ。黒姫山も妙高山も綺麗に浮かんでいる。みんなで山を眺めながらひとしきり話を楽しんでからそれぞれの道をくだる。
2週間ぶりの地附山、雪が溶けたので粘菌の様子も見ていこうと、私たちは倒木の多い森の道を行く。粘菌は昨年の秋に見たところにその痕跡を残している。胞子を飛ばしてぺちゃんこになっているもの、固まって春を待っているもの、それぞれの姿なのだろう。
暖かくなってきたから、また活動してねと声をかけながらゆっくり歩いて家に向かった。