青空が広がる日には何か予定が入っている・・・山へ行けなくて悔しい思いをしていたが、久しぶりに山歩きができた。暖かい日が数日続いたので、そろそろ粘菌も見られるのではないかと、夫はいそいそしている。行き先は髻(もとどり)山。りんご畑の間を通って山に入っていくといくつかの倒木が見られ、そこには粘菌が活動していることが多い。
さすがにまだ一面の雪景色だった。だが、雪の量は思ったより少ない。髻山は長野の北、飯綱町との境にあるのだが、今年は積雪量が少ないようだ。白い色が広がるりんご畑の間を山へ向かう。まだ雪が残るけれど、りんご農園の仕事は始まっているようだ。りんご農家の人に挨拶して山道に入っていく。小鳥たちも賑やかに、畑の周りを飛んでいる。いろいろな鳴き声が聞こえるが、私にはわからない。まれに枝の上でゆっくり休んでいる鳥がいると、その姿を見つけることができる。今日は我が家の庭にもやってくるジョウビタキが見えた。
山との境に幾つかのため池があるが、以前来た時には大きなガマの穂が立っていた。今、雪で覆われている窪みには爆発したガマの穂がたくさん倒れている。まだ数本立っているのも見えるが、その穂も爆発して綿毛が飛び出している。ガマの穂は綿毛がみっしりと詰まっていて、熟すとちょっと触るだけで一気にボンと広がるので、「爆発する」と言われる。
雪道を登り、倒木の下をのぞいてみると、いた、いた。おそらく秋から冬の入り口に活動しただろう粘菌の、胞子を飛ばした跡らしいものが広がっている。
ハチノスケホコリの姿は、まさしく蜂の巣状で、よく名付けたものだと思う。オレンジ色のもじゃもじゃした毛糸のようなものが繋がっているように見えるが、これは細毛体と言うのだそうだ。胞子だけでなく、細毛体を伸ばして繁殖もするそうだ。
近くには黄色い細毛体を伸ばしているものもあった。こちらはキンチャケホコリ。胞子を飛ばした穴の周りから黄色い細毛体を伸ばしている。
何本もの木を観察しながら登っていくが、森の中の雪の量が増えるに従って粘菌の姿は見えなくなる。小さなキノコはさまざまな形で目を楽しませてくれ、雪の上には落とし物も多い。動物の足跡や糞、木の葉、木の実、雪がない時には見過ごしてしまうもの。
いろいろな形を楽しみながら登っていく。雪の量が少ないので、元気なシダが雪の上に飛び出している。裏を見ると胞子をビッシリつけている。多くのシダは目立つ花を咲かせないが、葉裏などにたくさんの胞子をつけて繁殖する。名前を調べてみるのだが、似たものが多いうえに、たくさんの種類があって、なかなか分からない。
木々の実や葉は雪の上に落ち、見上げると樹上の枝は裸になっているが、虫こぶや繭など、虫たちの生活の跡が残っている。
山城だった髻山の山頂は広々している。その最後の登りは石垣を積んだような急な登りだ。凍った雪が溶け始めた道を滑らないように気をつけて登る。
まるで春霞のような柔らかな山々の風景を眺めて、しばし山頂を楽しむ。今は噴火の恐れがあって立ち入れない本白根山や、万座山なども見えている。我が家の近くの山からは並んで見えている笠岳、横手山がここからだと重なっている。見る方角が変わると山の姿が違って見えるのも面白い。いつもは前の山に隠れてしまって見えない万座山が見えるのも奥行きを感じる。軽井沢から万座を越えて志賀へ降りた道も、草津白根山の湯釜を見てくつろいだ広場も、コマクサの花を見に登った白根山も、いつになったら再び自由に楽しめるようになるのだろう。
山々を見ながらつい思い出に浸ってのんびりしてしまった。薄曇りだけれど、ポカポカと暖かい。しばらく山頂で楽しんだので、降ろうか。
滑らないように気をつけて、どんどん降っていく。今日は登りも降りも全く人に会わない。貸し切りだ。
麓に降りてくると、朝は閉じていたオオイヌノフグリの花が一面に開いている。空がそのまま引っ越したような綺麗な青だ。そしてふとため池に目をやると、向こうの岸近くに2羽のカモが浮かんでいる。あまり見たことがない色、嘴が広い、このカモは見た目のままハシビロカモというらしい。冬を過ごすとまた北へ帰っていくそうだ。 ゆったりと水に浮かぶカモさん、春はもう少し先だよ・・・と教えてくれているのかもしれない。