長野では「上雪(かみゆき)(※1)」と言う。冬型気候がもたらす寒気が降らせる雪ではなく、南方低気圧の影響で降る水気の多い重い雪。普段は日本海岸から来る雪が、この時は太平洋岸にも多く降る。関東の平野部にも降る雪だ。長野はこの境目にあたるので、冬型の強い寒気、南の低気圧、どちらの雪も降る。その時の低気圧高気圧の強さや、位置によって変わるのは、どの地域も同じことだろうが、今回の上雪は30cmほど積もった。
降り始め(5日昼頃)に地附山の山頂にいた(※2)が、山の中はどのくらい積もっただろう。山の雪を踏みに行ってみることにした。家から歩いて行く方が良いと思うが、降り込められた車を動かしたいと言う夫につられ駒弓神社の駐車場まで車で登る。
駐車場は真っ白だが、雪は思ったより少ない。車は我が家の一台だけ。カバンの中にはスパッツと軽アイゼンを入れてきたが、まずは一本のストックを持って歩き出す。昨日までの足跡がついているが、今日はまだ誰も登っていない様子。雪の日は、野生動物だけでなく、人の動きも見える。
急坂についている足跡は凍っていない。踏み込むとザクっと動く。今日はまだ気温は氷点下らしいが、山道の踏み跡が凍っていないことにはびっくりだ。人が踏み固めたところはカチカチに凍って、うっかり乗るとつるりと滑る・・・というのがこれまでの冬の山歩き。ザクッザクッとシャーベットのような雪道を登りながら、なんだか騙されているような不思議な感覚にとらわれている。地面があったかいということなのだろうか。
一気に登ってパワーポイントにつく。ツルツル滑らなかったけれど、シャーベット状の雪道を一歩一歩進むのもエネルギーがいる。汗びっしょりになった夫はここで着替えをする。太陽が暖かい日差しを注いでくれているので、上半身裸になっても寒くないそうだ。見ている方が寒い感じだけれど。
着替えをしてさっぱりしたようなので、先へ進む。わずかでも標高が高くなったからか、風が当たるようになったからか、少し硬くなった雪を踏んで山頂へ。山頂は一面真っ白。山頂の祠も真っ白に覆われている。北の方に雲が多いようで、飯縄山は上半分が雲の中。黒姫山、妙高山、そして斑尾山はみんな隠れている。
山頂には木のベンチもあるが、真っ白な雪が先客となっている。しばらく雪景色を眺めてから下ることにする。今日は午後に会議があるので、早めに出かけてきた。昼までに帰ろう。
パワーポイントまで降ると男性が二人何か話しながら景色を見ている。毎日登っているというヤマさんと、畑仕事が楽しいというスーさんだ。ヤマさんは昨日も登ったけれど、雪の多さに閉口して途中から引き返したと笑っている。
今日は道を作りながら歩いてきましたよと言うと、ありがたいとニヤリ。
雪に慣れた人なら知っていることだけれど、踏み固めた雪はその形に凍って溶けにくくなる。道路に残る車の轍も同じこと。早朝に車が通ってつけた轍の雪が、日が昇ってもそこだけ残っているのを見ることがある、あれだ。
山道にも同じことが起こり、何人かの人が前の人の足跡を辿って歩いていくと、雪の中に細い道ができる。この踏み固められた雪道がそのまま凍りついて溶けず、盛り上がって歩きにくい道になってしまうのだ。できるだけ広く踏み跡をつけておくと、雪が溶け始めた時にも歩き易くなる。もちろんこれは散歩気分を楽しむ里山でのこと、時間を気にしながら登る深い山ではそんなのんびりしたことは言っていられない。
しばらく立ち話をして登って行く二人を見送る。さて、私たちは降ろう。
登りよりさらに溶けてきたザク道を時々滑りながら下っていく。滑り跡をつけるのは他の人のためにはよろしくないのだが、急なところは滑ってしまうのも仕方ない。雪の中に顔を出した小さなヒイラギの緑や、まだ残っていたサルトリイバラの赤い実などを横目で楽しみながらどんどん下って駐車場に着いたのは11時過ぎ。お昼は我が家でゆっくり食べることができそうだ。