飯綱町へ用があって、出かけることにした。時間の制約がない用だったから、ちょっと回り道をして粘菌を見てから行こうと張り切る夫。昨年末には粘菌の変化を観察するために何度も髻(もとどり)山に登ったけれど、今年はご無沙汰している。久しぶりに髻山に行こうと言う。
昨年は見つけた粘菌の未熟子実体が成長していく姿を見ることが楽しくて何度も歩いたのだ。12月には近くの地附山の中腹を歩いてから髻山の中腹へ足を伸ばしたこともあった。粘菌は山頂よりも中腹で見つけることが多いので、地附山の粘菌を観察してからすぐ髻山の粘菌も見に行ったのだ。
あっという間に一年近く経ってしまった。今年は地附山には足繁く通ったけれど、髻山にはほとんど行かなかった。昨年粘菌がいたところには、今年も同じ粘菌が活動しているのではないかとちょっぴり気にかかっていたのだ。
髻山の登山口はリンゴ畑の中にある。収穫期の真最中なのか、見事に実っている。青空に赤いリンゴが映える美しい田園風景の中をゆるゆると登っていく。山道に入るところにある溜池に茂っているガマの穂が今日の強い風に揺れている。セイヨウタンポポがいくつか花を開き、リンゴの木の下にはふわふわした綿毛が広がっている。田んぼがあるから水も豊かだなのだろう。歩いているとカエルがぴょんと跳ねた。茶色い小さなカエルだ。これはアマガエルかな。アマガエルといえば綺麗な緑色のカエルを思うが、変色した白っぽい色や茶色のものも案外見ることが多い。
山道に入ると倒木に目がいく。苔むした倒木が多いが、粘菌はあまり見つからない。昨年たくさん活動していたハチノスケホコリも少ししか見えない。木の影を覗き込んでいるとサッと風がわたり、カラマツの葉がパラパラと降ってくる。
秋というより冬だね。陽の光を受けるとそこだけ暖かいが、影に入ると冷え込んでいる。スギやカラマツなどの針葉樹の森には大きなシダ類が広がっている。冬になっても緑が濃いシダの群生は少し森を明るい感じにしてくれる。
落ち葉の雨に打たれながら登っていくと、いくつか粘菌を見つけることができた。マメホコリやドロホコリなどはポックリしていて面白い。でも色が倒木と同じ茶色なので目立たない。うっかりすると見過ごしている。倒木には濃い深緑に染まったところがあって、よく見ると小さなキノコが顔を出している。綺麗な青緑の平たいキノコだ。ロクショウグサレキン、ちょっとかわいそうな名前だけれど、とても綺麗な色だと思う。
森の中には面白い木の実が落ちている。実をつけた柄がぼこぼこと膨らんでいる。どこかで見たことがある、家に帰って調べたら、これはケンポナシ。果実酒などにもするそうだ、拾ってくればよかったというのは後の祭り。
ほとんどの木の実はすでに落ちている。ミヤマガマズミ、ミツバツツジなどかろうじて数個が樹上に残っている。そんな中、アブラチャンはまだたくさん枝先についていた。
粘菌、キノコ、木の実などを見つけながらゆっくり登って山頂へ到着。広々とした山頂からは善光寺平の北の端を挟んで志賀の山々が見えている。急に寒くなったので、雪になったらしく山肌には白いところが多い。
山城があった山頂は広くなっている。今では珍しい天測点(星の観測により天文測量を行う地点として国土地理院が定めた場所。重い測量機器を置き、安定した測定を行うためコンクリートの台座が作られた。現在は天測点での天文測量は行われていない。国内48点あったが、5点は崩壊してしまったそうだ)の柱も健在だ。
山頂でしばらく休んでから、そろそろ雪がやって来そうな空気の中を降る。杉の落ち葉が重なった中から純白に光るキノコが顔を出している。キノコは様々な形や色が豊かで見つけると嬉しいのだが、あまりに種類がたくさんあって名前が分からないものばかりだ。
再びリンゴ畑の中を歩いて車に戻り、飯綱町に向かう。山の裏の道を走っていたら森の斜面に大きな石が立っているのが見えた。その下には看板があったので、車を停めて近づいてみた。看板には、この巨大な「舟石」は飯綱町の天然記念物に指定されていること、古飯綱火山の噴火でできた石が運ばれて来たもので、石のくぼみに常に水が溜まっていて神霊水と呼ばれて大切にされてきたことなどが記されていた。自然の奥深さにまた触れた気がした。