神奈川県の西部に住んでいる頃は、丹沢や箱根の山々は比較的近く感じられ、ちょっと時間が取れると日帰りで行ってくることができた。ただ、日々追われるように忙しく過ごしていたので、なんだか慌ただしい山歩きになっていたのが、今思えば残念だった。 リタイアした今なら時間はたっぷりあるが、遠くの山まで出かけたり、山小屋に泊まりながら歩き続けたりする体力がなくなってきて、皮肉なものだと思う。
長野に引っ越した今、近くの山々に重ねて訪ねることができるようになって、季節ごとの花を見つけたり、芽吹きから実りまでの移ろいを楽しんだりすることもできる。過去に歩いた丹沢や箱根など、幾つもの山々に季節を変えて行ってみたいものだと思うことも多い。しかし、遠くなってしまった今、日帰りは難しく、泊まりがけでゆっくりというのもなかなか難しい。
箱根周辺は観光地として知られているところには人が溢れているが、静かな山道もたくさん隠れている。ちょっと日帰りで山の空気を吸いに出かけようという時には楽しめる。いくつかのコースを何回か歩いたことがあるが、屏風山へはふと思い立って出かけた一回きりだった。
2015年春に大涌谷に火山性地震が発生してから箱根山の一部も入山規制が敷かれ、現在(2023年11月)も神山周辺は規制中のコースがいくつかある。大涌谷にも入れない時期が続いたが、入場可能となったようだ。だが、火山性ガスが発生しているので、呼吸系の病気など懸念がある場合は入山しないようにとの注意事項があるようだ。
当時住んでいた神奈川県の家から箱根方面は比較的近い。7時半に家を出ると10時半に芦ノ湖のほとりの恩賜公園に着く。小田急線とバスを乗り継いで行く。芦ノ湖には海賊船仕立ての遊覧船が浮かび、大涌谷から降りてきた湖尻と結んでいる。かつては子供たちと、そしてその後孫たちとも何度か乗ったことがある。海賊船の中には宝物がいっぱい詰まった箱などもあり、子供たちの夢を掻き立てている。
恩賜箱根公園前でバスを降りたので、近くの店でお団子を買い、関所跡に向かう。ここではあまり時間をかけずさらりと通り過ぎるようにして登山口に向かう。観光目的で来た時には大涌谷や芦ノ湖に限らず、箱根彫刻の森公園、箱根湿生花園なども楽しんだ。箱根エリアは広く、楽しめるところがたくさんある。
そして山歩き。11時半に登山口から登り始める。お腹が空いたので、どこかでお団子を食べようと思うが、樹木が生い茂った急な道が続くので、なかなか落ち着いた場所が見つからない。なんとか座れそうなところを見つけてお団子を頬張る。
お腹を満たして、さらにひとのぼり。細い笹竹が密集して生えている中に道は続いている。芦ノ湖のすぐ近く、観光道路のすぐ隣の山なのに、なかなか趣がある道が続く。
残念ながら見通しはあまりない。深い木々の下を黙々と歩く。歩き始めてから1時間ほどで山頂に到着。途中でお団子を食べたから実際は1時間もかからない。
ミヤマシキミの赤い実が光って、森の下に続いている。当時の山メモにはリンドウやトリカブト、ノギクの花の名があるが、写真を撮らなかったのか、残っていないのが残念だ。メモには花だけでなく樹木もヒメシャラの他、伊豆、箱根に多いアシビの名がある。苦手な樹木も調べたのか、ブナ、リョウブ、ヤマボウシ、ミズナラなどと書いてある。今なら見分けられる木もあの頃は調べなければ分からなかった。
山頂に着いたけれど、ここも深い森の中だった。北条氏の砦だったそうで、その跡が残っている。といってもさほど見るものもないので、10分ほどうろうろしてから降る。
下りは関所に戻らず、甘酒茶屋の方に向かう。下りも1時間はかからず、甘酒茶屋に着いたのは午後1時半。そこからバス停に向かい、箱根湯本までバス。湯本からは小田急線に乗り、家に帰ったのは4時を回っていた。