丹沢の塔ノ岳目指して出かけたのは11月初めの頃だった。当時小田急江ノ島線沿線に住んでいたので相模大野で乗り換え、秦野まで行った。秦野からバスでヤビツ峠まで登った。7時半に家を出て、峠に着いたのは10時ちょっと前、丹沢山は家の近くからも見えているのに、裾野をぐるりと回って近づこうと思うと結構遠いのだった。
ヤビツ峠から歩き出して、10時には富士見山荘に到着。ここから本格的に山歩きだ。
近くには「秦野盆地の湧水群(百名水に選ばれているらしい)」の一つの護摩屋敷の水が湧いている。三ノ塔への道標に従って森の中の岩がゴロゴロ転がる道を登っていく。木々の葉はすっかり冬支度、落ち葉が綺麗に山道を染めている。
ヤビツ峠から二ノ塔を超えて三ノ塔への道はあまり高低差がなく歩きやすいと聞いていたが、大きな岩がゴロゴロしていた。
そして、人気のコースだからたくさんの人が歩くのだろう、道は大きくえぐれているところがあった。丹沢表尾根といえば三ノ塔からいくつものピークを超えて塔ノ岳に至る人気コース。塔ノ岳からは、丹沢山を越えて最高峰の蛭ヶ岳までの長いコースが続いている。丹沢山塊はこのコースを初め、たくさんの魅力的な沢登りコースがあることでも知られているので、近隣からだけでなく、全国から登山者が訪れる。
子供達がまだ小中学生の頃、札掛の丹沢ホームに泊まり込んで丹沢の自然を学んだことも懐かしい思い出だ。息子は毎年丹沢自然保護協会の行事に参加して活動していた。カジカガエルの声を聞いたり、ヤマボウシの実を拾ったり、巨木に開けられた熊穴に潜り込んだりした。夜の林道を歩いて、月や星の光を知った。森の中で、人間もできうる限り野生に戻り自然の一員に近づこうと試みたものだ。崩れ始めた登山道の修復や、増えすぎた鹿の問題についても学んだ。
さて、表尾根に話を戻そう、昔学んだ山を守る取り組みが少しずつ実践され、説明の看板が立っていた。山道には木の階段が設置され、崩れやすいところには水切りガードができている。私たちはその中を二ノ塔に向かう。
二ノ塔からは富士山や相模湾が一望できるはずだったのだが、だんだん湿り気が多くなってきて、周囲は真っ白。すぐ近くの木々も霞んでいる。山頂に立って展望がないと何か一つ足りない気がしてしまう。ましてここは丹沢、晴れれば大きく富士が見えるはずなのに・・・。
と言っても仕方がない。霧の日には霧の日を楽しもう。幻想的な風景もまた良いではないかとちょっぴり負け惜しみ。 まだ11時過ぎだったが、ここで腹ごしらえをしてゆっくり登れば晴れてくるかもしれないと、淡い期待を抱いて二ノ塔でおにぎりを食べることにした。秋も深まって、花はほとんど見えない。リンドウが綺麗な紫色だが、お日様の光が当たらない今日は花を閉じている。それでもその綺麗な青紫の花を見つけると嬉しくなる。木の梢を見るとポツポツと花芽らしいものが見える。厳しい自然の中で生物は冬を越す準備を着々と始めているのだろう。
おにぎりを食べてから三ノ塔へ向かう。期待とは裏腹にだんだん霧が濃くなってきたようだ。15分で三ノ塔へ到着。広い山頂の端の方が見えない、真っ白。そして寒い。
晴れていればもう少し塔ノ岳方面へ歩こうと話しながらやってきたのだが、この天気は回復どころか下り坂だ、潔く引き返すことにした。真っ白な山頂で記念写真を撮り、崩れ防止の取り組みがしてある山頂周辺を一回りして、降り始めたのは11時45分だった。
富士見山荘でラムネを飲みながら休憩、ヤビツ峠13時51分発のバスにちょうど間に合って、来た道を帰った。
丹沢の山は奥深く、いろいろな姿を見せてくれるので、何度でも行きたくなる。今回は霧の中の丹沢、そして爽やかな秋から厳しい冬へ移る直前の、秋の真ん中の丹沢を堪能してきた。