10月後半に毎日のように足を運んでいた地附山だが、粘菌もあまり大きく変化する様子がないので、庭の片付けなどに日を費やした。だが紅葉の便りがあちこちで聞かれるようになってきたので、地附山も綺麗になっただろうとワクワクする。5日も経てば粘菌も変化しているかもしれない。
朝、地附山公園が開くのを待って出かける。今月末(11月23日最終日)には公園も冬季閉園になるから、車で楽に上がれるのもあと少しだ。歩き始めると、先日は紅葉していたイタヤカエデがみんな散ってしまっている。遅かったかな・・・と思いながら登山道に入る。
落葉が進むにつれて森の見通しが良くなり、私にも小鳥の姿が見えるようになってきた。梢で囀っている小鳥は見たことがあるけれど、なんだったかな。ホオジロだ。
標高が上がるにつれ、森が赤に黄色に染まってくる。過去に地滑りがあったところは再び地滑りが起こらないように手入れがされている。斜面には植栽された樹木が茂っているのだろう。カエデが多いので、真っ赤に色づいている。見事な紅葉の中を歩いて、六号古墳へ向かう。地附山にはいくつものコースがあるからその日の気分や目的に合わせて豊かなコース選択ができる。今日は紅葉と粘菌を楽しむコースといこう。
夫が粘菌を撮影している間に森の中を歩く。茂っていた草も枯れて、見晴らしが良くなってきた森の中は藪も歩きやすい。足元に小さなスッポンタケが首を垂れているのを見つけた。暗緑色の頭部も乾いて黒ずんでいる。独特な匂いも終わり、すでに胞子は運ばれた後なのだろう。
楽しみにして来た粘菌の変化はしかしあまりはっきりしないようだ。少しずつ色が変わっていたり、胞子が飛び始めたりしているものがあるが、全体的にはつぷつぷの色がちょっと変わったかなという様子。雨がないから少し立ち止まっているのだろうかなどと、夫と話しながら見て回る。
稜線に上がると落ち葉がカサカサに乾いて丸まっている。こんなに乾き切った山ではキノコも出ないだろう。今年は本当にキノコが少なかったらしい。夏の猛暑に続き、秋の雨量の少なさで、菌類も地面の下に留まってしまったのだろうか。私たちは小さなキノコに目を止め喜んで歩いているが、毎年キノコの収穫を楽しみにしている人たちは残念そうだ。
山頂からは秋色の飯縄山が見える。黒姫山から妙高山へつながる展望がよく見えるようになってきた。さらに右へ視線を向けると、前山の紅葉の上に斑尾山が見えている。標高733mの地附山から北信五岳と呼ばれる山の頂が4つ見えている。なんだか嬉しいじゃないか。風がない今日は、暑くもなく寒くもなく、山頂で憩うにはぴったりの陽気だ。いくつかあるベンチではそれぞれに持ち上げたお昼ご飯を楽しんでいる。最近は性能の良いサーモボトルも各種あるから、山頂で火を使わずに温かいものを食べられる。見回すとカップ麺や、お湯を注いで作るカレーなどを食べている人がいる。
そんな人様のお昼ご飯を眺めながら、私たちはお煎餅とフルーツだけ。お昼は家に帰ってから食べる。近いからできることだ。
しばらく煎餅を齧りながら秋色の風景を楽しんだ。さて帰ろうか。粘菌観察を主とした山歩きではあまり通らなかったパワーポイントから公園への緩やかな道を行こう。カエデが多い、紅葉が綺麗な道だ。カエデの赤だけではなく黄金色のポプラもあり、まだ緑色を残すミズナラやコナラの木もある。ウリハダカエデ、ダンコウバイは黄色く染まっている。クリの木はオレンジ色か。
それぞれの色に染まる木々の下をのんびり歩く。パワーポイントから見える東南の山々は霞んでいる。浅間山も、湯ノ丸山、烏帽子岳もかすかなスカイラインを見せて空に溶け込んでいる。
我が家のすぐ近くにこんなに見事な紅葉の世界が広がっていることを嬉しいと思う。道々拾って来たカエデの葉を水に浮かべると、家の中にも爽やかな秋が広がってくるようだ。
一昨日夜中に雨が降った。かなり強い風と雷を伴った、久しぶりの大雨だ。久々の雨に山の自然も喜んでいるのではないかと、裏山に出かけた。朝、わずかにポツリポツリと水滴が落ちていたが、歩き始める頃には明るくなってきた。雲が割れて青空が少し顔をのぞかせ始めた。鳥の声も聞こえるし、キノコも少しは見つかるらしいが、私たちはやっぱりいつも気になる粘菌探しだ。雨に打たれて胞子を飛ばしたのか、流したのか、割れてしまっているのもある。
例年11月半ばまでの今の時期が一番紅葉の見頃だと思うが、激しい風雨に打たれてか、木々はかなり葉を落としてしまった。数日前に来た時見事だった赤が生彩を欠いてしまった。樹上で茶色く丸まってしまっているのも多い。茶枯れた落ち葉の積もった道を見ると、今年の猛暑が激しかったからなのではないかと思える。
ヤマウルシは一番先に赤くなって輝くのだが、もうほとんど散ってしまった。替わりにヌルデが真っ赤だ。落ち葉が積もった道は歩きやすい。カサコソ音をたてながら歩く。茶色になった草むらにはまだポツリポツリと実が残っている。赤い実は目立つけれど、紺や黒の実は枯れた葉の下になって目立たない。
ふと、草の陰に青い色を見た。キノコだ、近づいてみると青というより黒に近い、けれど、黒の奥に青い光がほの見える。もう崩れ落ちるばかりの老菌(そんな言葉があるか?)だ。裏返してみるとやっぱりひだの間に青色が隠れている。成菌の時の姿を見たかったな。先日のスッポンタケと言い、今日のこのキノコと言い、見つけるのがちょっと遅すぎたね。
刻々と変化している自然の姿を、ほんのわずかでも目を止めてみることができるのは、もしかしたらとても貴重なことなのかもしれない。夫と私は植物や菌類などに興味があるからそこに目がいく。彼らは動きが少ないから見やすいのかもしれない。もっと動きのある鳥や動物、昆虫や魚などを観察する人はもっと大変だろう。自然は待っていてはくれないから・・・自分の心を沿わせていくしかないのだと思う。