昼までに戸隠高原に行く用ができた。戸隠や鬼無里からも集まる人たちとの会合がある。今年は戸隠方面に行く機会がとても少なかった。今日は途中の飯綱高原に集合、せっかく高原に出かけるのだから、集合時間までに少し森の中を散策してこようと、夫が車で送ってくれた。
長野市から浅川のループ橋を登って飯綱高原に入る。雲が広がってきたせいもあるか、今年の紅葉は精彩を欠くようだ。昨年春にオープンした飯綱森の駅に車を停め、落ち葉の積もった道を歩く。
大谷地湿原はすっかり冬支度の模様。湿原を一周する散策路は湿ってグチャッグチャになるところもあるのだが、そのような場所には木道が設けられているので歩きやすい。広い湿原はカヤが駆られて積もり、白く広々としている。
森の中に続く道には落ち葉が積もっている。モクモクといった感じだ。散策路の脇にはウバユリの実がツンツンと立っている。既にタネを飛ばしてしまっているものも多いが、まだ実の中にびっしりとタネが詰まっているものもあった。弾けた実をのぞくと一体何個のタネが入っているのだろう、綺麗にびっしりと重なっている。遠くまで飛ばす方が種の保存には良いと思うが、夫が手に落ちたタネを森の中に飛ばすように撒いてみたが、タネはあまり舞い上がらずに落ちていった。ウバユリにはウバユリの訳があるのだろう。
森の中にはマムシグサの真っ赤な実もつんと立っている。以前来た時にマムシグサの群落を見たが、実をつけて立っている株の数はあまり多くない。うまく交配しなかったのだろうか。マムシグサの仲間にはいくつもの種があるそうで、なかなか特定できない。とくに実になっているのは分かりにくいから、みんなマムシグサの仲間と呼ばせてもらう。
木道の上には落ち葉が一面に積もっている。とても気持ち良い空間だ。だが、のんびり歩いているとポツリ、水滴が落ちてきた。降るというにはとてもわずかな水滴がポツリ、ポトリと落ちる中、森を見ながら歩く。森は茶色に染まってきているが、時々きらりと赤く光る実、落ち着いたブルーに輝く実が見える。赤いのはコマユミだろう。青いのはサワフタギ。足元にはコブシの実も転がっている。
木道を歩いていると、山道を藪漕ぎしながら歩く時と違って、ちょっと自然が遠い。湿原の保護のためには仕方がないのだろうけれど、木肌に触れられないのはちょっぴりつまらない。奥に回って四阿の跡あたりになると倒れた巨木がそのままになっていて、山道になる。やっぱりいた。こういうところには倒木の影に粘菌がいそうだと思ったんだ。見つけたのはマメホコリ、オレンジ色と、少し時間が経ったらしいグレーがかったのと並んでいた。
地面にも、腐りかけたような倒木にもキノコがいっぱい出ている。あたりは発酵の香りがほのかにする。名前もわからないキノコたちだけれど、森の中を潤しているのだろう。
湿原の端について山の斜面が迫ってくると小さなピンクの花をつけたハナタデが一面に広がっている。近づいてみると、ハナタデは花が終わり実になっているようだ。触れるとポロポロこぼれていく。大きな葉のメタカラコウも毛のようなふわふわした実をたくさんつけている。高原はすでに実りの季節も終盤なのだ。
のんびり歩いているうちに雨粒は落ちなくなったけれど、集合の時間が迫ってきた。少し急ぎ足で湿原の中の木道を歩く。霧が晴れてきたので飯縄山が見えてきた。湿原の淵の森の紅葉が裾を飾るようだ。もう少し早い季節ならもっと華やかだったろうか。
木道を歩いて森の駅に向かう。ふと見ると木道に隠れるように黄色い鮮やかな色が見える。リュウキンカの花だ。木道の近くに一つ二つ、小さな黄色い花が見えている。
リュウキンカは水芭蕉と並ぶ湿原の春の花、今頃咲くなんて・・・。春の大谷地湿原にはリュウキンカが黄色く広がってとても綺麗だけれど、こんなに秋深くなって咲いているのは初めて見た。暑かったり、旧に冷え込んだり、また暑くなったり、花もびっくりしているのかもしれない。