地附山の粘菌の変化を追いかけているうちに、以前見つけた葛山の粘菌が気になってきた。すぐ隣の山だから縦走するのも可能なのだが、粘菌を観察し、撮影し、立ったり座ったり、倒木の下を覗き込んだりして歩くことが増えたので、風景や花を楽しみながらの山歩きより疲れてしまい、隣の山まで足を伸ばすことが億劫になる。
「今日は葛山へ行ってみようか」と、夫。幸い青空が広がってきたので、北アルプスも見えるだろう。
鑪(たたら)の郵便局の前から山道を登り、葛山城跡の駐車場に車を停める。早速靴を履き替えて出発だ。登り始めると登山道脇の笹が広く刈り払われている。地元の人たちが整備したのか、登山道はかなり広々とした空間の中に続いている。歩きやすくなったが、何だか違う山へ来たような感じもする。
それでも少し登ると斜面一面にアキノギンリョウソウが立っている。懐かしい風景だ。もう花期は終わって、壺型の実を持ち上げて白かった花茎は黒く染まってきている。
笹や小さな木が茂っていた斜面は狩られて広々としているので、腐りかけたような木がない。斜面を登ったり、降りたりして広く歩きながら探したが、粘菌はわずかしか見つけられなかった。
北斜面の木の影にオクモミジハグマが数本立ち上がっている。糸のような実を揺らしているものが多いので、花は見られないかと思ったけれど、数本まだ咲き残っていた。
葛山に北側から登ると、急な登り道で時々日向ぼっこをしている蛇くんに会うのだが、そこの笹も狩られているので落ち着かないのか、今日は蛇くんに会えなかった。赤トンボが話をしているようにすれ違いながら飛んでいるが、今日の葛山は思ったより静かだ。
谷の下から伸びているタラノキの実が紫の霞のように目の高さに広がっているのが美しい。そしてその向こうに白馬三山がすでに白い山肌を見せている。山頂近くなると、城跡らしい段丘をいくつか越す。ひらけた日当たりの良い草地にポコポコとホコリタケが出ている。地面に並ぶように出ているのはキツネノチャブクロだろうか。狐と狸の区別がつかなかったのだけれど、最近見つけたキノコの図鑑には地面から生えるのがキツネノチャブクロ、切り株や倒木から生えるのがタヌキノチャブクロと解説してあった。地面に広がるように生えているこのホコリタケ、一部の穴の周りに茶色いシミのようなものがある。そっと押すと、いつもは胞子が吹き出すのに、じゅくじゅくと茶色い液体が出てきた。雨でも入ってしまったのだろうか。
ジゴボウ(ハナイグチ)のシーズンだと思うのだが、見つかるのは大きくなって腐り始めたものばかり。食べられそうなのは2、3本だけだ。ノコンギクの紫の花を見ながら登ると山頂。クサギの実が綺麗な赤と紫に光っている。
山頂でちょっと一休み、お煎餅を齧りながら周囲を見回す。南側の旭山はシルエットになって、その裾に広がる善光寺平は霞んでいる。西に見える北アルプス北部もやっぱり霞んでいる。北側にはいくらかクリアに見える飯縄山と、頭だけ見えている戸隠連峰。
ちょっと霞がかった遠景ではあるけれど、久しぶりの眺望を楽しんだ。
さて、帰りは林道を歩いて、もう一度粘菌を探そうか。森の中にはあまりキノコも見られない。指より小さなキノコはたくさん顔を出しているのだが、大きなキノコが見えないのだ。昨年は森の中にニョキニョキと見えたのに・・・。
林道にはヒュウガセンキュウだろうか、白く輝く花がたくさん咲いていた。大きなシダが茂る針葉樹の森の中には時々マムシグサの真っ赤な実がニョキっと立っていて目をひく。
道の端には白い金平糖のような蕾をたくさんつけてミゾソバが続いている。シロバナミゾソバだろう。一生懸命探してようやく数個の花が開き始めているのを見つけた。シロバナミゾソバに混じって、ハナタデも開き始め、チヂミザサの毛糸のような花も見られた。
冬を迎える前の勢いのようなものも感じる晩秋の花に会えて、薄曇りの空の寂しさをまぎらわせることができた山歩きだった。