残暑が厳しい8月後半に3日連続して地附山へ登った。そして今日も。一回行くと一つ新しいものを見つけ、その変化が見たくなって翌日登ると、また新しい発見があるという具合で、キリがない。自然は奥深く、分けいっても行き着くところがない。
その日(23日)、家で山の道具を調べていたら懐中電灯がないことに気づいた。粘菌を探すときに使っているペンライトだ。どこかに落としてきたらしい。探しに行こうと地附山に向かう。いつ落としたかもわからないけれど、最近粘菌を見に行ったのは地附山だけだから、そのコースのどこかで落としたのだろう。
公園の駐車場に着くと、公園管理の西澤さんとイケさんが話していた。私たちはイケさんと合流、さっそく歩き始める。まずは先日も見つけた落ち葉の中の粘菌を見る。いる、いる、今日も元気だ。ゆっくり歩きながら、六号円墳に向かって登る。この周辺を私たちは「粘菌通り」などと呼んでいる。森の中に倒木が多く、粘菌が見つかることが多い。
ウツボホコリ、キフシススホコリなどが見つかる。男子二人が夢中になって撮影しているので、私は先へ進む。大きく斜めになっていた木が最近ドンと倒れた。ここにも粘菌がいることが多い。木に向かって歩いてふと下を見ると、あった。「あった!」つい大きな声を出したから、夫たちが「何を見つけたの」と、こっちを向く。彼らは珍しい粘菌を期待している。私は黙って手に持ったものを顔の前に掲げる、懐中電灯。
見つかるとは思っていなかった。びっくり。しかも綺麗だ。防水でしょとイケさんがいうのでスイッチを入れたらちゃんと点灯した。
みんなで粘菌を観察している時、夫に電話が来て翌日の用が入ったので、「私たち、明日は来れないね」と私。すかさずイケさんが「任せて。変化は見ておくよ」などと応え、笑いながら別れた。
翌日(24日)朝の用が終わったら、「やっぱり自分の目で変化を見たい」と夫、慌てて山靴をはいた。前日キフシススホコリの変化したものだろうと話して通りすぎた白いのは、どうやらシロススホコリ、あるいはネズミススホコリという別のものらしい。今日はもう一度じっくり見てこよう。
時間が遅いからイケさんはもう上だろう。前日の粘菌を確認しながらゆっくり登る。たった1日なのにすっかり色が変わっているのも多い。
いつもと違う道を行ってみると、そこに新しい粘菌をたくさん発見したので、まだ山の中にいるかもしれないイケさんに電話してみた。イケさんはもう帰り道だったが同じところを通ったそうで、「いっぱいあった(粘菌)から後で教えてあげようと思った」とのこと。なぁんだ、別々に来ても同じところを歩いているんだね。
いつも同じところを歩いて変化を見るのも大切、違う道を歩いて新しく発見するのも大事、体がいくつあっても足りないと笑う。
青いハチに会いたいと山頂へ行ったら、なんとユウスゲのしぼんだ花があった。こんなところにあったと喜んだり、またもや花に会えなくてがっかりしたり、私は一人「え〜っどうして今まで気づかなかったんだろう」と騒いでいた。後で聞いたらイケさんも知らなかったそうで、株もまだ小さいので、今年初めて花をつけたのかもしれない。来年の楽しみが増えたことにしよう。
雲が濃くなってきたので急いで帰ろう。ほぼ観察を終えて公園近くなってきたら、雨が降ってきた。今年の夏はあまりにも雨量が少ないので、しっかり降ってくれると良いのだが・・・。
家に帰って撮ってきた写真を見たら、思うように撮れていなかったらしく、次の日(25日)もやっぱり「行こう」と言う。「三日連続だ〜」と笑いながら出かける。イケさんの車を発見したので電話すると、昨日見つけた粘菌のところで撮影しているそうだ。私たちも一気にそこへ向かう。だが、イケさんが見つけたというウツボホコリの未熟子実体はすでに成長して胞子を飛ばしていた。粘菌の変化は本当に早いね。
ゆっくり旧道を歩いて、サガリハリタケがついている倒木を見る。サガリハリタケはキノコだが、そのキノコを食べる粘菌がいるそうで、以前から夫は見たいと言っていた。白いサガリハリタケの端の方が黄色くとろけるようになっているのを見つけて、粘菌の始まりではないかと期待する。「また来なくちゃ」と言いながら、山頂へ向かう。こんなに暑くて雨も降らないのに、粘菌は活発だ。
途中アオモジホコリも撮影して、山頂へ向かう。3人でベンチに座り、煎餅をかじりながら青いハチを待つが、やってこない。今日で3日間連続青いハチに会えない。
土日は用があったので、粘菌探しはお休み。月曜の朝(28日)「行ってみませんか」とニヤニヤする夫。私が山へ行くのを断るはずがないという顔。夫はサガリハリタケの周りを観察したいらしい。そして赤から黒に変化した粘菌らしい物のその後が見たいという。
やっぱり山で出会ったイケさんと途中から一緒に歩く。一つ一つ変化を見ながら、そして新しいのを発見しながら歩くと時間がいくらあっても足りない。歩数はさほど多くないのだが、藪を分け入り、立ったりしゃがんだりをひたすら繰り返すから疲れる。
雨も降らないのに、とても小さな粘菌があちこちに発生している。名前のわからないものもあり、3人で子供のようにはしゃぎながら撮った写真を見せ合っていたが、山頂に着く頃はすっかり疲れてしまった。おやつを食べながら青いハチを待ったが、この日も会えなかった。青いハチくんのシーズンは終わったのだろうか、例年だと9月初旬までは飛んでくるのだが。
なぜ粘菌に惹かれるのだろう。小さな花にも、彩り豊かな虫たちにも同じように心は騒ぐのだが。その名前、生態は図鑑で調べ、教えてもらえる。粘菌の世界はまだわからないことが多いという。図鑑も揃っていない。自分で動き、考えてまた次の動きを見つけることがいかに魅力的か、歳を重ねてもなおその豊かな魅力を感じられるのも、粘菌の周りをうろうろしている理由の一つかもしれない。
澄んだ空を見上げて、「今日は帰ろう!」。