暑い神奈川から、涼を求めて娘がやってきたが、長野も猛暑。幸い夜になれば涼しい風が吹き、朝まで息がつける。しかし日中は痛いような日差しになる。せっかく来たのだから、ちょっと涼しい森の空気を味わいに行こうと北へ向かった。
何年か前には孫とも訪ねたことがある、「妙高高原スカイケーブル」に乗って高いところにあるブナ林を目指そう。
秋に来た時に空一面のロール雲が見事で気持ちよかった。翌日には新聞の一面にロール雲の写真が載っていたことを思い出す。
「妙高高原スカイケーブル」は確かに妙高山の懐ではあるが、赤倉温泉に乗り場がある。駐車場に着いて妙高山を見上げると中腹の森の中に赤い屋根のおしゃれな建物が見えるが、あそこは赤倉観光ホテル。スカイケーブルはホテルを見下ろして上に登っていく。
冬にはスキー用のゴンドラになるが、夏は観光用、日差しが強くゴンドラの中は思ったより暑い。備え付けの団扇で仰ぎながらの11分。ゴンドラを降りると一気に爽やかな空気が広がった。標高1256mの標柱が立っているスカイケーブル山頂駅、ここまで登っても日向はかなり暑い。ただ、一歩木陰に入ると爽やかになるのが嬉しい。
私たちは木陰を求めて歩き始める。ずっと前に夫と二人で来た時はブナの森を散策して上の方のゲレンデに出てから降りてきたが、今そのゲレンデは工事中らしく重機が置いてあって、ロープが張り巡らしてある。「今日は森の中には行けないみたいだね」と言いながら少し坂を下り赤倉清水を目指す。
森の木の下は背の高い笹がびっしり茂って、一歩も入り込めないような雰囲気だ。笹にまじってエゾアジサイの木やウド、オオカニコウモリ、ヨツバヒヨドリ、オオイタドリなどの大型の花が咲いている。これらの花は丈高く伸びて咲くけれど、一つ一つの花は小さいのが寄り集まっている。そして色合いも地味なのが多い。
笹が切り開かれた遊歩道には小さな花々が揺れている。風の道なのだろう。ジシバリ、コウゾリナ、シナノオトギリなどの黄色い花、ウツボグサは濃い紫、赤いネジバナも混ざっている。
小さな花たちを見てはしゃがみ込んで撮影したり挨拶したりしながら歩くと森に突き当たる。左に小さな沢が流れている。小さいけれど急な澄んだ流れだ。この上のブナの森から集めた水がそこから湧いている、赤倉清水だ。ちょっと手を入れてみる、「わぁ〜冷たい」自然に声が出る。清水の看板には『復活の泉』と書いてあるが、どんな意味なのだろう。泉の近くには木のテーブルがあって、木陰で休むことができる。
夫が休んでいる間に娘と私は沢の脇を歩いてみる。風が強い。水辺には小さなクロクモソウが揺れている。木漏れ日を浴びるとピカッと赤く光るが、葉影に入ると一瞬にして黒く光る。その明暗の変化は花だけでなく、沢の水面、濡れた岩、一面の苔など周辺のすべてが光の饗宴となっている。
私たちは水辺の空気をたっぷり楽しんで赤倉清水に戻る。待っていた夫に小さな花が咲いていたと伝えると見に行こうと言い、今度は娘が清水の風に浸っている間に私たちは花を撮影しに出かけた。
しばし、水辺の空気を満喫してから展望が開ける大地にでる。斑尾山や、野尻湖が目の前に広がる風景は素晴らしいが、太陽に直接照らされる。標高千メートルを超えても熱風を感じる。
こう暑いと、雪に覆われた冬の山が恋しくなる。赤倉温泉スキー場エリアは広く、スキーが人気スポーツで賑わっていた頃はどこへ行っても人が多かった。赤倉のゲレンデを滑り降りた時も目の前に斑尾山や野尻湖が見えていた。
しばらく雄大な景色を眺めていたが、暑いので、山頂駅まで戻ることにしよう。大きくなったワラビが一面に揺れる中をゆっくり登ってブナの森に入る。やっぱり涼しい。ここでしばらく遊んでいようか。
森の中には赤キノコがたくさん生えている。小さな円周を描くフェアリーリングもある。カサは乾いてひび割れ状になったものが多いが、白いのや茶色いのなど、ブナの木の下は豊かだ。私たちもブナの傘の下でしばしの涼を楽しんだ。