毎日登っても飽きない地附山。これは事実で、毎日登っているという人を数人知っている。私たちは時々登るから山道で彼らに会うと挨拶する。標高はそれほど高くないが、中腹の公園に広い駐車場があり、ちょっと行ってくることもできるし、いくつかのコースがあるから全て巡ればかなりの運動になる。隣り合っている山と合わせてミニ縦走も楽しめるし、最近は走っている人もたくさん見かけるようになった。
そしてキノコも出る。だから、粘菌も豊富だ。
粘菌を見に行ってこようと公園から藪の中を登っていく。毎日暑くて、雨もあまり降らないせいか楽しみなヤマドリタケモドキの姿はない。いや、あっても私のボンクラまなこには映らないだけかもしれないが。公園からの登山道周辺には濃厚なカレーの匂いがする。「山の下にカレー屋さんあった?」「いい匂いだね」、鼻をヒクヒクさせながら登っていく。この匂いの正体はニオイワチチタケ、可愛い丸模様のキノコだ。このキノコが乾燥するとカレーの匂いがする。それにしてもなかなか強い匂いだ。斜面にいっぱい顔を出しているからだろう。
オオバノトンボソウがやっと花を開いた。薄い黄緑色の花は開いても目立たない。上から見るとお玉杓子か金魚のようだが、なぜかトンボソウ。
足元にはママコナの赤が目立ってきて、頭上にはリョウブの白が広がっている。雲の多い空を見上げて夏だなぁと頷く。
昨日、イケさんがやってきた。山で粘菌を見つけて写真を撮ってきたからとイキイキしている。「今日はカメラを持っていかなかったからうまく撮れなかった」と、残念そう。スマホで撮ってきた画面を見せてくれる。明日もう一度今度はカメラを持って行くというので、粘菌の場所を教え合おうと、私たちも一緒に登ることにした。ただ、私は昼に用があるので、急いで帰らなければならない。
朝、早めに公園の駐車場で待ち合わせ。公園から六号古墳への道をいく。ヤマハギが赤く咲き出している。オカトラノオはもう終わり、季節は走っていくようだ。まずは、私たちが見つけたキフシススホコリの場所を見る。ウツボホコリやマメホコリもある。
季節が変わってきたからか、ツノホコリやクダホコリは少ないようだ。代わりにキフシススホコリの姿が多くなってきた。粘菌は「移動する菌」ということで知られているが、キフシススホコリはまさにその移動して行く姿を見ることができる。丸太の上を這うように広がっていたキフシススホコリは、1時間後に見に行った時には明らかに姿が変わっていた。
ずいぶん多いのがムラサキホコリの仲間たち。長いのや短いの、まとまっているのや1本ずつ立っているの、濃い茶色のや肌色っぽいのと姿形がさまざまあって楽しませてもらえる。だが種類が多すぎて、名前を特定するのは難しい。
イケさんと撮った写真を見せ合って話すのはとても楽しい時間だが、昼前に家に戻らないと午後の用に遅刻だ。もう少し遊んで帰るというイケさんと山頂で分かれ、急いで家に向かう。
今年の夏は暑い。毎年同じことを言っているかもしれないが、長野とは思えない熱気が体を締め付けてくる。こういう日は山へ行こう。森の中を歩くのがいい。公園からのなだらかな道はちょっと飽きてきたという夫、駒弓神社から登ることにした。だが、森の中の道は涼しいだろうという思惑は外れた。
駒弓神社に挨拶して歩き始めると風がなくムワッとした空気に包まれる。汗が吹き出す。一足登るごとに汗が湧き出る感じだ。予想外の暑さに思わず叫ぶ「暑い!」「なんだこれは」、言ったところで涼しくなるのではないが、つい口が開いてしまう。
前に来た時はまだ蕾も見えないくらいだったキキョウが一輪綺麗に咲いていた。「気の早い子がいる」他のはまだ硬い蕾だ。花を見たせいではないだろうが、少し涼しくなった。風が出てきたようだ。高度が上がって木々の隙間が広くなったのか。
パワーポイントから藪に入って粘菌を探す。小さな薄緑色のポツポツが可愛いが、あまりに小さいのでカメラで狙うのが難しい。夫が挑戦している。なんとか撮影して山頂へ。毎日登っているヤマさんがやってきた。「登り始める時にもう下るイケさんと会ったよ。早いなぁ」「今日は駒弓から登ったから、会えなかった。残念」しばらく話して分かれた。
今日はさらに奥まで足を伸ばしてみよう。ウバユリも見たいし、サルナシの実や、キササゲの実も見たい。欲張りな私に付き合って歩いていた夫もキツリフネの花やママコノシリヌグイの花を見つけて嬉しそうだ。
ママコノシリヌグイとはなんという名前だろう、花はとても可愛らしいのに、この名前を思うと悲しくなってしまう、残念な花だ。
昨日撮ってきた写真を整理していた夫が、今日も行こうと言う。どうやら新しい粘菌を発見したらしい。とは言ってもそれは我が家の経験の中での話。それでも初めて会うのは花でも粘菌でも嬉しいものだ。ただ、上手く撮れていなかったので、今度は狙いを定めて、時間をかけてしっかり撮ってこようと言う。慌ただしく支度をして出発。今日は昨日撮影した粘菌の場所をめぐるという目的がはっきりしているので公園まで車で登る。
小さい時は綺麗な薄緑色のアオモジホコリ、あまりに小さいので、点にしか見えなかったけれど、よくよく見るとちゃんと柄があってその先に胞子をつける玉がついている。綺麗な緑に光っているのもあるが割れたようになっているのもあって、これは胞子を飛ばしているのだろう。
粘菌探しには必須アイテムのルーペを持って、懐中電灯の光を当ててようやく見ることができる小さな、小さな生き物の世界だ。藪の中をうろうろしていると虫たちもガサゴソ動いているのに出会う。いや、虫は身軽だからササっと動いているかな。
今年は蝉の声が少ないような気がしているが、ふと見ると3個の抜け殻が並んでついていて、なんだか可愛い。
町は連日30度を超える猛暑だけれど、森の中を渡る風に当たっているとちょっぴり涼しい空気に包まれる。動けば動いただけの力をもらえるような気がする裏山歩きは止められない。