全く、自分たちの計画性のなさに呆れる。欲張りだからか。あそこにも行きたい、こっちにも行ってみたい、あの花は咲いただろうか・・・と、頭の中は混線状態だ。
海の日と合わせての連休は異常な暑さになるそうで、標高の高い山に行きたいけれど、連休の混雑は避けたいと、これまたスッパリ決められない。
こんな時はあまり人に会いそうにもない里山をのんびりぶらぶらしてこようか。8時半、善光寺さん周辺は渋滞が始まっている。かなり長い対向車線の車の列を見て「帰りはここを通るのをやめよう」と夫がつぶやく。
茶臼山植物園の駐車場にはほとんど車がない。隣の動物園には子供連れの家族がたくさん歩いているのが見えたけれど、めぼしい花がない季節の植物園は静かだ。
日差しを避けながら茶臼山への登山道に入る。森の中に入ると一気に体感温度が下がるのが嬉しい。そして、倒木の前に立ち止まって見れば、いる、いる粘菌が。
夫は大喜び。以前来た時にもここで見つけたヘビヌカホコリがたくさん見える。しかもまだ白く光っている未熟子実体も。以前見た時は黄色く膨らんで胞子を飛ばしている状態のものも多かった。
このヘビヌカホコリを見るとなぜか私はドイツのパン、プレッツェルを思い出してしまう。それは余談だが、ぬかるんだ道を登りながら脇に倒れている太い木の幹をのぞき込むとどこにも粘菌が活躍しているではないか。ツノホコリやタマツノホコリの純白な輝きがたくさんある。そしてまだ形にならないような灰色がかったものが白く変化していく様子なども見られる。
こうなると進むペースはどんどん鈍くなる。立ったり座ったり、倒木を跨いだり、藪の中に分け入ったり。長く黒い柄に小さな玉がくついているのが木肌一面に広がっているところもたくさんある。これはアミホコリの仲間か、クモノスホコリの仲間か、とにかく多い。
そしてその脇に細長い房のようなものがチョンと立っているのはムラサキホコリの仲間だ。ムラサキホコリも大きいのやら、小さいのやら何種類もあるそうだから特定が難しいけれど、いいじゃないかムラサキホコリさんとよべば。
粘菌がたくさん生きている森にはキノコもたくさん見られる。小さいのやら大きいのやら、中には可愛い真っ白な幼菌も顔を出していてまるでキノコの赤ちゃん。
たくさんの粘菌に会えたのが嬉しいが、花の姿はあまりない。ナガバハエドクソウらしい小さな花が開き始めているのが唯一目を引いた。
針葉樹の暗い森を登って山頂に到着。ここは見晴らしもないので、もう少し奥の展望台へ行こう。晴れていれば信里の田園風景の向こうに北アルプスが聳えているのだが、今日はあいにくの雲に隠れている。残念だけれど、ここで綺麗なムラサキホコリを見ることができたからまぁいいか。
雲が晴れないかなぁと話しながら、おやつを食べてちょっと休憩。しばらく雲と睨めっこをしたけれど、爺ヶ岳の稜線がわずかに現れてまた消えていっただけ。展望は諦めよう。
今日はもう一つの楽しみがある。ナミハンミョウがいるらしいという情報を得て久しぶりに会いたいと思ってやってきた。ナミハンミョウは横須賀でたくさん見た。特に珍しくはなかったように記憶している。夏の夕方ウバユリの群落を見に山へ入ると何匹ものナミハンミョウが脇から飛び出し、少し先へ降りる。その繰り返しが道標のようだから「道おしえ」とも呼ばれる。まだ小学生くらいだった子供たちは色鮮やかなナミハンミョウに大喜びだった。
長野に来て初めて出会うナミハンミョウはあまり飛ばず、ひたすら走っていた。光沢のある羽に光が反射して美しい色を見せるが、記憶の中のナミハンミョウに比べると赤色が少ないようだ。近づいてみるとキラリと赤が光る。反射の違いなのだろうか。
さてゆっくり降ってまた熱暑の世界に戻ろうか。植物園にはアカツメクサ、シロツメクサが一面に咲き乱れている。背が高いのはヒメジョオンとヘラオオバコ。駐車場には我が家の愛車だけだった。