「どこへ行こうか」、昨夜は久しぶりにやってきた友人と夜遅くまで話に花を咲かせた。起きると幸い空は明るい。友人は日頃ブナの森を歩く気持ちよさを話していたが、「鬼のいない里に行ってみたいなぁ」とも話していた。
梅雨の最中、山の上の天気は怪しいので、鬼のいない里、鬼無里(きなさ)へ行ってこよう。
国道406号線を白馬方面に向かって走る。何ヶ所か道路工事をしている。山が迫るカーブの多い道は裾花川に沿っている。川の水は茶色く濁り、水量も多い。何回かこの道を走っているけれど、裾花川の水が茶色に濁っているのは初めて見た。雨量が多いからかと思ったが、ダムが放水していると表示があり、そうかと頷く。
所々山の斜面が崩れて、川の淵に土砂が積もっている。大きな木が横倒しになっている姿は恐ろしい。自然の威力を感じる。
鬼無里の中心地を通り過ぎ、さらに川に沿って登っていく。頑丈そうな洞門を通る道は雪の多さを感じさせ、この自然厳しい中に昔から人は踏み込んでいたのか・・・と感慨深い。冬にここを訪れた時、氷柱の大きさに驚いたことを思い出す。
白馬への道と分かれ、奥裾花渓谷への道を登る。この上に奥裾花ダムがある。ダム湖を渡る大きな橋の手前で車を停める。ここから先は侵入禁止。春の水芭蕉シーズンと、秋の紅葉シーズンは走ることができるのだが、その間の今は走ることができないようだ。
ダムサイトの駐車場に車を停めて周辺を散策しよう。
ダム湖の水は薄茶色だ。この水を放水しているから、裾花川の水は茶色に染まっていたのか。そして水量も多かったのだ。
上から見ていると、ダム湖に船を浮かべ、作業員が何か仕事をしている。クレーンで吊り下ろした板のような物に水に浮かんだ倒木などを集めているようだ。豆粒のような人が働いている姿を見ていると目が離せない。大変な仕事だ。
そのうちにまた数人がやってきて、ダム湖に向かって垂直にかけられたハシゴを降り始める。水面近くに下りると計器のチェックか、扉を開けたり、水面を覗き込んだりしている。この人たちもまた豆粒のように小さく見えるが、思わず「気を付けて」と呟いてしまう。
しばらく目が離せずに見ていたが、クレーンが一回運び上げたところでその場を離れる。
ダム沿いの急な斜面を登るのはタノちゃん。久しぶりにやんちゃぶりを見たよ、でも危ないから早く降りてとみんなに言われる。なんとか無事に降りてもまた別の斜面を登ろうとする。怪我をしないでね。
ダム湖に注ぐ渓流沿いにちょっと歩いてみよう。トリアシショウマやオカトラノオが白い花を咲かせている。ヒメジョオンも一面に揺れていると美しい。ヤマブキショウマはちょっと遅いのか、ようやく点々と白く開き始めている。エゾアジサイが濃い青で見事だ。遠くに見えるピンクの花は何かなと近づくとこれもエゾアジサイのようだ。
壁一面に垂れ下がっている枝に白い花がたくさん咲いている。「梅みたいだ」とタノちゃん。マタタビに似ている。でも葉が白くなっていないね、ミヤママタタビかな、いややっぱりマタタビだね。
友人の家で待っている猫ちゃんのお土産にしたらと言うと、そんなに好きじゃないみたいと言う。猫にも好みがあるのだろう。
花を見ながら歩いていくと、ダム湖に注いでいる小さな沢がいくつも見下ろせる。沢の水は綺麗に澄んでいる。しばらく歩いて小さな奥裾花トンネルあたりまで行って引き返す。トンネルの前からは山に向かう道が細く登っている。一夜山に登る道だろうか。私たちは北東から登ったけれど、北西から登る道もあるのかもしれない。林道脇には思ったより花がたくさん咲いている。山へ続く道は車やバスで通り過ぎることが多い。窓から眺めている花々は登山口から登り始めるともうあまり出会えないこともある。たまには林道を歩くのも面白いね。
雲が厚くなってきたので、急いで帰ろう。駐車場に着く頃にぽつりと雨粒が落ちてきた。
帰りは鬼無里の旅の駅に寄って地元産の野菜などを購入。お昼はおやきと、十割蕎麦をいただいて楽しい旅の締めくくりとなった。