粘菌の変化を見ようと地附山に足繁く通っていたが、隣の大峰山、桝形城跡まで出かけることが減っていた。もちろんそれらの山だけでなく、善光寺平を取り巻く里山は魅力いっぱいだから時間を見つけては出かけたいと思っている。
花の様子を見てこようと、伊勢社から花岡平の霊山寺を越え、物見岩を通って登ったのは24日土曜日。用が溜まった夫を家に残して一人で登った。「面白いものがあるか下見してくるね」と笑いながら登山靴を履く。
春と夏の狭間のこの季節、里山の花はあまり目立たない。輝くような純白のツルアリドオシが二つずつ並んで咲いているのが目を楽しませてくれるだけ。頭上のネジキは花が終わって、実になり始めている。ぶら下がるように下向きに咲いていた花が、実ってくると上を向くのが面白い。歩いていると道に小さな白い花が散らばっている、ソヨゴだ。花はまだ樹上にたくさん咲いていて、目を楽しませてくれる。
気にかかっていたミヤマホウソはどうだろう。近づいていくと淡いクリーム色の花が膨らんでいる。枝の先に穂を垂らし、小さな花をたくさんぶら下げている。見事に枝先がみんな満開だ。花はあまりに小さいので、その構造がわかりにくい。近接撮影を試みるが揺れているので難しい。自分の目でしっかり見ていこうと思うが、これまた自信がない。花の中が一つずつ違うような気さえしてくる。何回も繰り返し見ていくことで、見えてくるかもしれない。
さらに登っていくとハナイカダの実が光を反射して綺麗だ。まだ緑色だが、この実が黒くなると食べられる。
花を見ながら歩いていると昆虫たちの動きが目に入る。蝶やトンボも増えてきた。ヒラヒラと蝶は意外に高いところを飛んでいく。蝶といえば花と組み合わせたいのは人間の勝手かもしれない。
久しぶりの大峰山山頂を踏み、花を見たり粘菌を探したりしながらのんびり歩いて地附山へ。モウセンゴケは白い蕾が膨らんできた。ヤマトキソウは薄いピンクの花を咲かせている。土曜日だけれど、あまり人に会わないのは梅雨の蒸し暑さが原因だろうか。いつも乾燥している大峰山、地附山も湿っているところが多い。夫へのお土産に粘菌の変化を撮影して家に帰ろう。
地附山は色々なコースがあるから、一筆書きで行きたいところを回るのが難しいことがある。近道をして別のコースに出ようと藪の中に入ったら、かなり藪漕ぎをした先に大きな崩れた岩が道を塞いでいる。乗り越えて行けなくはない気もしたが、雨が降った後なので無理はやめようと、再び藪の中を引き返した。いくつか粘菌の写真を撮ってから山を降りる。
さぁいくぞ。遠くの山は雲の向こうに隠れているが、地附山はクマノミズキが満開だ。足元にはネジバナの花。公園の斜面にたくさん咲いていたネジバナは昨年あたりから見られなくなった。白花もあって楽しみにしていたけれど、春先に芽を出したのは踏まれたのか、今はない。ここに咲いているからいいかなどと思いながら行く。
白い小さな花が日の光を受けて綺麗だ。近づいてみるとミツバ。我が家の庭に咲くのと同じだ。たくさん咲いているが花の大きさは2mmくらいだから近づかないと形がわからない。その周りにはウマノミツバも咲いている。こちらはもっと小さくて、どこが花なのかわからないくらいだ。
桝形城跡への登山道には伐採した木が伏せてあるところが多い。苔むしたり、もろもろに腐っていたりする木には粘菌が見つかることが多いから楽しみだ。そう言えば以前に見つけた真っ赤な塊はどうなっただろう。まるで噴火口みたいだったけれど・・・。その場所に近づいていくと、赤いドロドロとした形のところから同じ色のキノコが出てきている。ヒイロタケだろうか。
ハナニガナ、シロバナニガナはまだ咲いているけれど、他の花はあまりない。イチヤクソウが緑の影に時々見えるばかり。桝形城跡を降り、地附山からモウセンゴケ群生地に向かう。先日は蕾ばかりだったけれど、一斉に咲き出した。葉についた粘液と白い小さな花がキラキラ重なり合って目を楽しませてくれる。7、8mmの花の中をのぞくと真ん中の雌しべが二つに分かれているのが見える。近くに咲くヤマトキソウも今年は多い。
新しい粘菌はあまり見られなかったけれど、小さな花々に会えたので満足だ。
なかなか長袖がしまえないと思っていたら一気に暑くなった。急に暑くなると体にこたえるが、生き物の動きは活発になるようだ。雨も多いので、菌類は喜んでいるだろう。半日スケジュールで行ってくることができる裏山はいい。
公園に車を置いて歩き始める。ふと見るとイケさんの車がある。早いなぁ、もうどこか歩いているのかな。六号古墳へ続く道の脇には以前イケさんが伐採して整備した木が積み重なっている。まだ新しいのでこれまで粘菌は見つからなかったのだが、ふと見るとポツポツと顔を出している。いよいよ菌類が活動を始めたようだ。
上の方でチェーンソーの音がする。今日はイケさんと仲間の人が伐採をしているそうだ。まっすぐ桝形城跡へ行こうかと思っていたが、予定変更、イケさんたちに挨拶してからにしよう。現場に行ってみたら、とても大きな木を倒している。二人だけでこの木を始末するのは大変そうだ。だが、私たちがそばにいても危ないだけだろう。挨拶してその場を離れる。
雨の後の道は落ち葉が流されてうねっている。滑らないように気をつけて歩く。道の脇の倒木には小さなクモノスホコリが一面に見える。びっしりと子実体が並んでいる様子は圧巻だ。嬉しくなる。
その後桝形城跡へ足を運ぶが、めぼしい粘菌には会えない。だが、たくさん出ているツノホコリや、タマツノホコリは純白でいつ見ても美しい。森の中には大きなマンネンタケや、華やかな薄ピンク色のトキイロヒラタケも見ることができた。大きなキノコにはてんとう虫みたいな昆虫が集まっている。キノコに頭を突っ込んで食べているようだ。この昆虫はなんとキノコという名前がついているそうだ。フタオビチビオオキノコという。キノコを食すかららしいが、なんだか面白い。
夏になるとちょっと動くだけで汗が流れ、標高の低い里山登山は暑さとの戦いにもなるのだが、この様々な自然の変化に会いたいから、やっぱりまた出かけよう。