ずっと見たいと思っていたヒメザゼンソウに昨年やっと会えた。とっても小さな花なので、他の植物が伸びてくると影に隠れてしまう。今年もそろそろ咲いたのではないか。植栽のエビネやサルメンエビネはもう花の終わりだ。ベニバナヤマシャクヤクもほとんど散って、数枚の花びらがくっついている感じだ。
みどりが池には浮き草が広がっている。カルガモやカイツブリが浮かんでいるが、浮き草の方には行かない。やはり邪魔なのだろうか。彼らが泳いだり、もぐったりすることで水の中に空気が入り、水が腐らないのではないかと思うがどうなのだろう。
池のほとりのカラマツソウが繊細な花を開いて美しい。花に見惚れていたら、木の枝からポトリとモリアオガエルの卵が落ちた。池の中にジワリと広がっていく。森は生きているのだと感じる。クリンソウも花の終わりだけれど、まだ赤が濃くて綺麗だ。
さて、昨年ヒメザゼンソウが咲いていたところを見てみよう。あ、今年も咲いている。花が咲いてその横に実がついている。ヒメザゼンソウは花が咲くとその翌年実を大きくするらしい。昨年花をつけていた別の株も見てみるが、こちらには花も実も見られなくてがっかり。周辺の株を覗き込んで歩いたけれど、他には花が見つからない。
他の場所も見に行こう。植物園の中を歩いてたくさんの株の根元をのぞいてみたが、実をつけたもの2株だけで、花は見つけられなかった。
野鳥観察のシーズンではないのか、森の中の散策者は少ない。巨大な望遠カメラの人たちにも会わない。人は少ないけれど、森の中には綺麗な鳥の声が響き、カエルの声が賑やかだ。水辺にはヒオウギアヤメが濃い紫色に咲いている。高台の植物観察園にいくとアヤメも咲いている。以前はなかなか区別がつけられなかったけれど、花をよく見るとその違いは結構はっきりしているので、覚えてしまえばわかりやすい。内花被片がとても小さくて白っぽいのがヒオウギアヤメだ。でもシガアヤメなどという交配種のようなものも多いらしいから、気は許せない。あんまり細かく種分類をしてある花は特定が難しい。私などはまとめて「アヤメさん」とか「アザミさん」「マムシグサさん」とか呼びたい気もする。
戸隠は散策エリアが広い。飯綱高原から昔の参道を辿る古道を歩くこともできるし、越水から山を越えて新潟の方まで続くのか、旧越後道という道もある。もちろん登山者には戸隠山から西岳というエキスパートコース、高妻山へ登る健脚者コースは知られているが、瑪瑙山などのように登りやすいコースもある。
植物園を起点に、鏡池や、さらに小鳥が池の方まで足を伸ばしたり、奥社へお参りしたり、ささやきの小道を通ってキャンプ場の方まで足を伸ばすこともできる。もちろん戸隠五社にお参りする人も多いが、歩いて五社巡りをするのはかなりの健脚だ。戸隠奥社への杉並木は幽玄な雰囲気が素晴らしいが、以前ここで結婚記念の写真撮影をしているのを見かけたこともある。たくさんの人が訪れるところだ。
『八十二森のまなびや』を中心とした森林植物園を歩くだけでも季節ごとの豊かさを感じられて素晴らしいのだが、近年木道が取り外されて歩くエリアが狭くなったのが残念だ。新しい木道は、おしゃれでデザイン的には良いかもしれないが、バリアフリーとは言い難い。木道の端は平坦なうえ、曲がりくねっているので車椅子はもちろん杖をついて歩くことも怖いだろう。しかも最近は湿地に没してきていて、上下にもうねりが見られるようになっている。見た目のデザインだけでなく、人の動きを考えた木道だともっといいなぁと思う。
さて、鳥の声とカエルの声が響く森の中を一周して帰ろうか。ギョウジャニンニクの花がいっぱいだがそろそろ終わりだ。コバイケイソウも茶色になってきて、時々ぽつりと咲き遅れの花が白く残っている。森は夏の支度に忙しそうだ。名前を知らないトンボがスイスイと飛び、小さな虫たちが動いている。
湿っぽい森の中にはびっくりするような大きなカイメンタケが飛び出している。粘菌も活動している。そして粘菌を探してのぞいた大きな木の洞には白いキノコの塊がまるで花開くように広がっていた。ハナビラタケに似ているけれど・・・。暗い木の洞の中に違う世界が広がっているようだ。