関東甲信の梅雨入りが発表された。暑くなって、雨も降ったとなれば、そろそろ粘菌の活動が活発になってくるのではないだろうか。という夫の思惑に乗って、もちろん私は花の姿も楽しみに、裏山へ出かけよう。
森の中を歩くにも良い季節になったからか、歩いている人が多い。秋から春先にかけての山で会う人はほとんど顔見知りの人だったが、今日はたくさんの人に会っても知っている顔はない。パワーポイントまで上がって、藪の中をゴソゴソのぞく。先日見つけたツノホコリはどうなっただろう。純白だったツノホコリは見る影もなく白と黒のどろんこみたいになってしまった。いや、これは人間の勝手な思いで、粘菌にしてみれば順当な変化なのかもしれない。近くを見回したら、今度はタマツノホコリが見られた。同じような半透明、純白の粘菌だけれど、こちらは小さな花のようにまとまっている。近くにある白い卵のようなものは幼菌だろうか。どちらも変形菌ではなく、原生粘菌という部類に属するそうだ。
夫が撮影している間に、私は近くを散策する。マメホコリもある。そして小さな茶碗のような形のものが切り株に出ている。直径5ミリ程度のこれはキノコだろうか。チャワンタケという種類のキノコはたくさんあるようだが、その仲間かもしれない。
小さな巻き貝もくっついていた、細長い形のそれはキセルガイという。先日袴岳でも見たけれど、陸にも貝がいるとびっくりした。でも、見慣れたカタツムリも実は陸に住む巻き貝なのだ。カタツムリが貝の仲間だなんて、今まで意識していなかったということか・・・思い込みは恐ろしい。
雨に濡れて色鮮やかになった草木の中を気持ちよく歩く。ふと見ると、サイハイランが綺麗に立ち上がっている。昨年、花が終わった株を見つけただけで、地附山ではまだ咲いているのを見たことがなかった。今年こそ咲いている時に会いたいと思っていたから、とても嬉しい。夫が「これで咲いているの?」と聞くくらい、地味な花だけれど一枚の葉の上にすっくと立つ姿はなかなかカッコ良いではないか。
道々顔を出していたウメガサソウがようやく咲き出した。まだ俯いて蕾をぶら下げているものが多いけれど、日当たりが良いところは綺麗に開いている。近年姿が減ってきたかと思っていたけれど、森の中を見ていくとずいぶんたくさん顔を出している。高さが5、6cmくらいの小さなものも多いが、みんな花をつけているのが嬉しい。
近くにはシロバナニガナが揺れている。ニガナもハナニガナもこの山には多い。
山頂でのんびりおやつを食べよう。出会ったたくさんの人たちはみんなそれぞれの場所へ帰って、山頂は妙に静かだ。
粘菌が動き出したから、様子を見に通いたくなる。午後に用があっても行けるのが裏山のいいところ。靴を履き替えるのももどかしく、歩き出す。今日はちょっと違う道を行ってみよう。積み重ねられた倒木の陰に、ほうらいた。先日も見た半透明の白いツノホコリがあちらにもこちらにも小さく顔を出している。
そして、ソーセージを並べたようなこれは、コムラサキホコリだろうか。長さは5mmほどしかないのが並んでいる。夫が調べたら、どうやらハダカコムラサキという粘菌らしい。ムラサキホコリの仲間には昨年秋にたくさん会ったけれど、このソーセージみたいなのには初めて会った。肌色と黒色と、変化中らしいが、どんなふうになっていくのだろう。やはり最後は軸の黒い部分だけになるのだろうか。
もっと何かないかなと、腐りかけた倒木の陰をのぞくとサササっと動くものがいる。艶があって白い斑点が見える。マガタマハンミョウだ。あまりにも素早いのでカメラで追いかけられない。なんとか撮ったけれどピンボケだ。そしてザトウグモの多さにも驚く。「私が見るところには必ずいるよ、追いかけてきてるのかな」と、私が言うと、夫が「たくさんいるんじゃないの」と笑う。いやぁ、それにしてもすごいんですけれど。
粘菌に夢中だけれど、もちろん花に目を向けるのも忘れてはいない。花は自分の咲く時期を知っていてそれぞれの場で咲き出している。ウツボグサが開き始め、ミヤマナルコユリが花を落とし始めた。モミジイチゴはオレンジ色の実が光っている。イワガラミの花を見つけると、あちこちのアジサイ便りも聞かれる季節だなぁと思う。