近くの里山がだんだん緑一色の夏模様になってきた。ちょっと高いところに行ってみたいと心が騒ぐ。ブナの新緑が見たい。こんな時は私たちの好きな山、袴岳がいい。
からりと晴れたので大物を洗濯してから出かける。国道18号から117号に入り、途中から斑尾山に向かって登っていく。斑尾高原スキー場の裾を回るように北上し、赤池への道に入ると、駐車場はすぐだ。端の方に車を停め、歩き出す。道々タニウツギの桃色が目を楽しませてくれたが、ミズキやウラジロナナカマドの白い花も綺麗だ。ケナシヤブデマリが蝶のような花を開き始めている。白い装飾花は5裂している花冠の一つがとても小さいので、蝶が羽を広げているように見える。
ゆっくり歩いていく。何度も来ているのに、途中の脇道を入ってしまい、引き返す。袴池までいくとカエルの声がうるさいほど賑やかだ。オオイワカガミの葉が光っているが、花はすでに終わりだ。池の向こうにはミツガシワが咲き出している。木の枝からは白い泡のようなものがいくつもぶら下がっている。モリアオガエルの卵だ。水の中にはクロサンショウウオの卵塊も見えている。袴湿原の近くまで往復してサンカヨウの実や、オタカラコウの巨大な葉を見てから山道に入る。
今日は山菜のことなど忘れていたが、ふと見ると蕨が出ている。ネマガリタケもまだ小さいのがある。つい手が動いて少しばかり収穫の楽しみも味わう。
足元には一面にヘビイチゴの黄色と、オククルマムグラの白が続いている。そしてふと気がつくとタニギキョウもたくさんまじって咲いている。サワハコベも純白の花がとても綺麗だ。踏み潰しそうなほど一面に咲いている花々を楽しみながら、そして粘菌を探しながらのんびり行こう。春は虫にとっても繁殖期なのか、2匹が重なって交尾している姿がいくつも見られた。
道の脇の笹竹の先が異様に膨れているのが見つかる。小さな芽を無数に出して丸くなっている。病気かもしれない。 そんな様子を見ながら歩いていたら、綺麗な花が目に入った。コケイラン、今咲き始めたというばかりの美しい姿ですっくと立っている。その姿は孤高の花という感じで素敵だった。
沢を越えていくといよいよブナの森だ。斜面からは下にホオノキの花が見える。たくさん大輪の白い花を咲かせている。ホオノキを眺めながら登り、気がつくと神々しいブナの森に入っている。ダケカンバやミズナラの大木もある。樹下にはヒメアオキの赤い実が艶やかだ。ツルシキミは満開の花の時期。ユキツバキはほぼ花を落としているが時々まだ赤い花を見ることができる。
ブナの森の気持ちよさに深呼吸をしながら山頂に到着。目の前の妙高山が綺麗に見える。奥の火打山はまだずいぶん白い。途中何人かの人とすれ違ったけれど、山頂は私たちだけ。おにぎりやお煎餅を出してのんびり山の空気を楽しもう。
山頂をさらに先へ少し降ると、コシノカンアオイの群生地がある。年々灌木が茂ってきて薮になってしまっているが、群落は奥へ奥へと広がっているようだ。季節はすでに花の最盛期を過ぎている。明るい緑色の若い葉がたくさん出てきているが、花は落ち葉に埋もれてしまっていて、あまり見えない。アリが寄ってきてくれればいいのだから、人間の目には見えなくても大丈夫なのだろう。
色々な出会いはあったが、探していた粘菌はなかなか見つからない。ドロホコリの小さいのと、どうやら昨年の活動の跡らしいものがいくつか・・・、春の粘菌はかくれんぼが上手なのか、まだ眠っているのか。
同じ道を歩いているのに、行きと帰りでは見える景色が違うのか、登る時に見つけた花を見過ごしたり、逆に登る時には見えなかった花を見つけたりすることがある。小さな沢をいくつか越えるその淵に、白い釣鐘型の花がぶら下がっている。3枚の葉を持ったツル性の植物だ。まだ蕾もあるが、釣鐘型の花も何個か咲いている。形はハンショウズルみたいだけれど真っ白、シロバナハンショウズルかなぁ。家に帰って調べたら、この花はトリガタハンショウヅルというらしい。
いくつか発見があったので、疲れも感じないうちに赤池に戻ることができた。
帰りは野尻湖畔を通って帰ろうと、タングラムスキー場の方へ車を走らせる。家に帰って筍の皮をむこう。