来週はしばらく雨が続くという予報。なかなか粘菌に会えないから昨年会えた場所に行ってみたくなる。長野市を取り巻く里山の標高はそれほど高くはないけれど、秋から冬にかけてはどこへ行っても粘菌が活動している姿を見ることができた。さて、今日はどこへいこうか。
運転手の気分次第か、運転手は「車に聞いて」と笑う。
頼朝山の麓を通って戸隠方面への道に入る。鑪(たたら)という由緒ありそうな地名の村落を通って葛山登山口へ到着。我が家からは20分、山道は狭く曲がりくねっているけれど、他の車に出会うことがほとんどない道だ。
この駐車場ができるまでは、家から歩いて観音山(575m)に登り、荒れた道を通って葛山まで行った。倒木が重なる斜面を跨いだりくぐったりする道は面白いが、油断はできない。春先にはチゴユリや、数種類のスミレが咲いて目を楽しませてくれた。
今日は楽ちんコース、靴を履き替え、ミズキの花が咲く下を通って登り始める。フジの花もまだ咲いている。歩きながら倒木を見つけると裏側まで覗き込んで粘菌を探すのだが、なんだか乾燥していて、やはり粘菌は見つからない。キノコがいくつか見られる。昨年のアキノギンリョウソウの実がまだ立っている。もうすでに種子を飛ばすという役目は終わっているのだろうが、その丸い姿はどこか愛らしい。その近くに今年のギンリョウソウが咲いている。俯いて咲いているので、そっと花の向きを変えて中を覗かせてもらった。紫色が儚げで綺麗だ。周囲を見るが、一輪だけしか見つけられない。
森はどんどん緑が濃くなってきた。登山道の脇には、イタドリの実が揺れ、ニガナの黄色が揺れ、ハルジオンが揺れている。ハルジオンは繊細な白く細い花が独特だが、ここ葛山にはずいぶん濃いピンクの花が多い。その色のグラデーションを楽しみながら登っていく。
北側からの登山道なので、途中に水溜りがあり、いつもぐちゃぐちゃしているのだが、今日は乾いている。雨も時々降っているような気がするが、雨量は少ないのだろうか、山全体がずいぶん乾燥している印象だ。葛山は山城の跡、途中に数段狭いけれど平にひらけた場所がある。東には志賀の山々、西には北アルプス北部が見えている。
小鳥たちがにぎやかに鳴き交わしながら木から木へと移っていくのをぼんやりと眺めながら登る。
山頂は花盛りだった。ニガナの黄色、シロツメクサの白、そしてヤマオダマキのクリーム色と薄紫のツートンカラー、彩り豊かだ。さらに嬉しいことに谷筋から伸びたキリの花が目の前に満開だ。薄紫のキリの花は一つ一つが大きいから豪華だ。
四阿のベンチに腰を下ろしておやつを食べる。向こうのベンチで2頭の蝶が顔を寄せ合っている。ジャノメチョウの仲間とマダラヒカゲの仲間、何を思ってか、ずっと動かない。もしかしてお昼寝タイム?私たちがおやつを食べたり、花を見たりしている数十分間、蝶たちも動かずそこにいた。
雨が近づいているせいか、北アルプス方面は霞んでいる。しばらく山頂での時間を楽しんでから、来た道を戻ろう。
葛山には南側からの登山道が数本ある。観音山から、頼朝山から、それぞれにコースがあるが、中腹の静松寺から登るコースもある。頼朝縁の寺、静松寺からのコースはかつて一度だけ歩いたことがある。静松寺にある古い石段は現在使われていないけれど、大竹屋平兵衛という人が善光寺の敷石を寄進した時に同時に寄進したものだそう。石段の上から覗いたけれど、苔むした段はなかなか急だった。
今日は旭山の向こうに広がる善光寺平を眺めてから、北のコースを降りる。もう一度ゆっくり粘菌を探しながら戻ろう。小さな花たちが道を彩っている。コナスビの黄色と、ヘビイチゴの黄色が明るく広がっている。
枯れ枝が重ねてあるところを注意深く見ていると、マメホコリが見つかった。明るいオレンジ色の豆粒のような粘菌、活動開始したものだ。急に寒くなった時の霜にやられたのか、小さいまま枯れてしまったようなものもいくつか見つかったが、なかなか元気な粘菌には会えない。
秋には七色に紅葉するモミジの下を通って降り、途中から杉林の中の道に折れる。草ぼうぼうの林道に出ると、ネコノメソウがたくさん細い目をつけて立っていた。この実を見て「猫の目」と名付けた昔の人はユーモアがあったなと思う。
森の中には大きなシダが茂っている。その中に入っていくと小人になったような気がして面白い。シダと遊びながら、山蕗を夕食のお菜にいただいて行こうか。先日知人から教えてもらった美味しいキャラブキを作ってみよう。上手くできるかな。