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春を迎えた戸隠を歩く〜〜森林植物園、鏡池〜〜(長野県)
2023年5月12日(金)追記5月14日(日)
小鳥の声が賑やかになってきた。戸隠の森にはシラネアオイやトガクシショウマが咲き出しているだろう。
朝の渋滞を横目に山へ向かう。森林植物園の駐車場には車がいっぱいだ。遠く他県からの車も多い。朝早くからの訪問者は野鳥観察の人たちだろう。戸隠の森は野鳥の宝庫とも言われている。
鳥の囀りを頭上に聞きながら歩き始める。『八十二森のまなびや』の前には植栽のシラネアオイが満開だ。トガクシショウマは盛りを過ぎようかというところ、サンカヨウが花をいっぱいつけて伸び出している。こんなふうにまだ葉も開かないうちに花を開いているサンカヨウの芽吹きを見るのは初めてかもしれない。今までに見たサンカヨウは大きく開いた葉の真ん中に蕾をたくさん載せている姿が多かった。
たくさんのサンカヨウが地面から白い花をつけて顔を出している。茎を伸ばしながら、葉も広げていくようだ。顔を出したばかりのサンカヨウのなんと可愛らしいことだろう。
みどりが池に向かうとカエルの声が賑やかになる。繁殖期を迎えて集まってきたモリアオガエルたちだろうか。
森の中に入っていくと薄紫の広がりがあちらこちらに見えている。オオタチツボスミレが小さな群落になって道の端に続いているのだ。ところどころに混ざっている白い花はツボスミレ、そしてコミヤマカタバミ。ミヤマスミレやヤマエンゴサクも今が盛りだろうか。
トチノキの若木に小さな蝉が止まっているのを見つけた。朝の寒さで動けないのか、羽化したばかりなら抜け殻があるはずだけれど近くには見えない。ハルゼミだろうか、じっとしている。そっと写真を撮って離れた。
久しぶりの戸隠の花を楽しみながら植物観察園に着く。アズマシャクナゲが満開で嬉しい。そしてシラネアオイも見事に花開いている。サンカヨウは芽吹き、トガクシショウマはそろそろ終わりか。オオカメノキが白い花を散らしながら存在感がある姿だ。しばらく花を楽しんでから湿原に降りていく。
日本海側の山には照葉常緑樹は少ないけれど、雪の下に隠れて生きてきたツルシキミやヒメアオキ、ハイイヌガヤなどもある。濃い緑の葉をつけた木々を見ながら降りていくと、目の前に湿原が広がる。
水芭蕉はもう葉が大きくなってきたけれど、その隙間にタチカメバソウやニリンソウが白く輝いていて、湿原の広がりを際立たせている。リュウキンカの黄色も鮮やかだ。
鏡池へ行く散策路はこれまでのところが荒れたからか、新しい道が切り開かれていた。笹竹を刈った後が出っ張っているので気をつけないと引っかかる。
沢辺にはニリンソウが一面に花開き、青空の下、一段と輝きが増している。足元にはホソバノアマナ、フデリンドウなどが咲いている。ふと見ると、太い苔むした木の幹からもフデリンドウが顔を出して綺麗な花を咲かせている。
階段を登ると、鏡池だ。戸隠西岳のゴツゴツした岩肌が迫ってくるようだ。風があるから湖面には漣が立っている。青空にたなびく飛行機雲が空を広く見せている。連休後のせいか、人の少ない湖岸に立ってしばらく雄大な景色を眺めた。
鏡池は農耕のための人造湖だそうだが、なんと素晴らしいところに作られたことか。目の前の戸隠山、西岳の荒々しい岩肌が湖の向こうにその全貌を現している。わずかに裾を引く木々の、今は新芽の色とりどりがレースのようにたゆたっている。風のない日の湖面の逆さ山も美しいが、わずかに揺れながら見えている逆さの岩山もまた面白い。二人でしばらく眺めている。